リッキー・リー・ジョーンズの新作

リッキー・リー・ジョーンズの新作「The Sermon on Expedition Boulevard」を聞く。レビューでヴェルヴェット・アンダーグラウンド風というので、本当かよと思ったが、聞いてみたらばモロだった。本人は「ヴェルヴェット的なドローン」と言っているが、それよりも平板なギターの反復がそれらしく、そこにこの人の怠いふにゃふにゃした感じの歌声が入ると何ともいえない雰囲気になる。なかなかよかった。大ヒットしたデビュー・アルバムが結構ジャズっぽい音だったので、日本ではどこか都会的なアンニュイでおしゃれなアルバムとして認知されていたけれど、歌詞は小銭欲しさに街角に立つ女たち、親権を奪われそうになって赤ん坊を連れて夜汽車で逃げる女、薬の売人とジャンキーがうろうろしているバーの情景など、アンニュイどころの話ではない歌ばかりだった。本人の人生も大変なものだったようで、ウェールズ系のボードヴィリアンの祖父をもち、父親も芸能人だったが生活は困窮していてあちこち転居を繰り返していたようだ。引き籠もり気味の少女期には「バスラウ」と「ショルベスラウ」という架空の友達と一人で会話していたというので、なんだかテリー・ギリアムの「ローズ・イン・タイドランド」のような話だ。学生時代は素行不良による放校処分の連続で、家出してウェイトレスをしながら歌い、一時トム・ウェイツと飲んだくれ生活を送っていたという(自分の来歴について自伝的なヴィデオで語っている)。ローウェル・ジョージに紹介されてデビューするが、アルバムが大ヒットした後もヘロイン中毒で苦しんだという。カバー曲集ではジャズのスタンダードなどに混じってジミ・ヘンドリクスの「Up from the Skies」、ジェファースン・エアプレインの「Comin Back to Me」さらにはトラフィックの「Low Spark of Highheeled Boys」、ドノヴァンの「Sunshine Superman」さえ演っているので、この人のサイケデリアな音楽体験がかいま見えるのだった。フワフワとらえどころのない感じは、原曲以上にサイケな感じともいえる雰囲気だった。そう考えると、レコード屋のジャンル分けとしてはいっしょになりにくい感じのヴェルヴェットというのも、それほど意外な取り合わせではないのかもしれない。


サーモン・オン・エクスポジション・ブルバード