「マーオリ 神々の楽園」展

上野の国立博物館に「マーオリ 神々の楽園」展を見に行く。国立博物館は現在、古代-中世の中国の遺物・美術品を展示する企画がメインなのだが、マオリ族の展示もなかなか見応えがあった。ニュージーランドマオリ族は、「イヴの七人の娘」を書いた遺伝学者のミトコンドリアのDNA調査によれば、元は東南アジア方面から来た人たちの子孫らしいが、かれらの祖先が伝説上のふるさとの地からニュージーランドに到達するまでをといた神話がある。神像と複雑な螺旋・樹状模様が絡み合った見事な木彫芸術の伝統をもっていて、図録ではたくさん見ていたが、今回、初めてまとまった数の実物を見た。集会所や倉庫の柱・梁にびっしりと彫り込まれたレリーフを組み上げた状態のまま見せる大規模な展示もあり、迫力満点だった。とても面白い造形だ。長く舌を出した神像が踊るように繋がり合っている。彫り物は建物や船の舳先、装飾品だけでなく、肉体にも施された。入墨の伝統があるが、実に細かく、しかも彫りがとても深いので、あたかも木偶に彫り込まれたレリーフのようになっている。一面に彫りを入れた首長の顔を型にとって作ったライフマスクが展示されていたが、非常にリアルにできていて、本当に100年以上前の人物の頭部が保存されているかのようだった。顔の上に蝶が羽を広げているような形の文様だった。ニュージーランドではいろんな貴石が採れるが、マオリの人たちは軟玉とよばれる、翡翠のような緑石を大切にしてきたという。今回の展示では、入り口に大きな軟玉の塊が置いてあり、自由に触ってくださいという趣向になっていた。タッチ・ストーンだ。石は長い間、多くの人に触れられてきたのだろう、滑らかに磨かれていて、触れると何とも言えない柔らかさがあった。
展示を見たあとは上野公演を横切り、不忍池沿いを歩いた。弁天様の入り口の屋台でたこ焼きを買おうとしたらちょうど焼き始めだったので、かわりに焼きそばを買ったが、おばちゃんが妙にサービスしてくれるもんだから多すぎて困った。このへんの野良猫は丸々太っている。焼きそばやらお好み焼きやらふんだんにもらっているに違いない。
不忍池畔にある下町風俗資料館に入った。小さな資料館だったが、なかなか楽しめた。最近は昭和30年代の町並みを再現したテーマパークなどが多いが、ここも、江戸時代から昭和30年代くらいまでの展示がメインだ。駄菓子屋や銭湯の番台が入っている。面白いのは、長屋づくりの、駄菓子屋の店などの中に入って、押し入れやら箪笥の中まで自由に開けていいことになっていることだ。布団や湯たんぽが入っていたりする。小金井の江戸東京博物館などでも感じることだが、部屋の中のちゃぶ台も、鏡台も、水屋も、何もかも小さい。ここ50年ほどで、日本人の平均身長は1割増くらいになっているのかもしれないが、これらの家の調度は半分とまでは言わないが、三分の二くらいのスケールだ。2畳くらいの店舗に3畳くらいの居間がついている。このスペースと家財道具の大きさを使いながら住む身のこなしは、今の日本人にはない。単に狭いところで我慢できるかどうかという問題ではなくて、身体感覚的に無理なのではないかと思う。ものの1時間もいたら、あちこちぶつかって部屋の中がぐちゃぐちゃになってしまうのではないだろうか。

数年前に話題になった「クジラの島の少女」も、ちょっと軽めではあったが、マオリ族の因習や現状の一端が伺えて面白かった。

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