マヤ遺跡-2

マヤパンはマヤ文明最晩期の遺跡。全体にチチェン・イッツァの小型版のような作りで、天文台もあるが、一見して、建築技術にも衰えを感じさせるものがある。マヤという言葉は意味がわかっておらず、彼らが自分たちのことをマヤと呼んでいたかどうかもわからないのだが、このマヤパンという名は実際に彼らが使っていた名らしい。遺跡の一部に彩色壁画とレリーフが残っている以外は、それほど見るべきものはないのだが、面白かったのは、神殿の階段の横に小さな穴が空いていて、ここに耳をつけながら話すと、自分の声がピラミッドの中を通って、まるでマイクを通したような感じで聞こえることだった。ガイド氏が教えてくれたのだが、意図的に作られたものかどうかはわからない。チチエン・イツァのピラミッドの階段の前で手をたたくと、ピューン、ピューンと鳥の声のような反響が得られるのは有名なのだが、もしかすると、この「マイク」も何か意図的なものだったかもしれない。

ヂビルチャルトゥンは春分秋分の日の朝日が神殿のゲートを通って、マヤの道=サクベを照らすことで知られる。道の反対側にはセノーテ=泉があり、睡蓮が咲いていた。ユカタン石灰岩の上に薄い表土が乗っている地質で、雨水はあっという間に地中に染み入ってしまう。地下には数多くの湖があり、この地下湖の天井が崩落したものがいくつかあり、有名なのは、チチェン・イッツァの近くにあるものだ。生贄が捧げられたことで知られる。利水はマヤの諸都市にとっても大問題だったようで、雨水を集める為の構造が各地で見つかっている。

ラブナとシュラパックはこれまで訪れていなかった「プーク・ロード」の一角だった。私はこの「プーク」と呼ばれる建築様式が好きだ。建物の角にはめ込まれた鼻の長い雨神チャックがユーモラスだ。ラブナもほんの一部しか修復されていない。

エヅナーは五層の大神殿のある大規模な遺跡。広場の面積も広い。
 
 
バラムクからリオ・ベックまでの遺跡群は、ユカタン半島の南側、ベリーズ、グァテマラ国境に近い地域に固まっている。ムンド・マヤ=マヤの地だ。いずれの遺跡もある程度以上の復元が施されていて、道路も整備されているが、唯一リオ・ベックだけがデコボコの未舗装道を延々と走らねばならない、一般公開されていない遺跡だった。リオ・ベックは建築様式の名前にも採用されている有名な遺跡なので、全く予想していなかったが、遺跡に続くでこぼこ道が次第に酷くなっていき、最終的に普通の車で行くことは無理なことがわかった。
引き返し、「どうします?」とガイド氏が言う。どうしますってったって...。近くの村の人に相談してみっか、ということになり、村の男たちが集まっていた集会場に。トラックに乗せてもらえないか交渉し、約7000円で遺跡までの往復と案内をしてもらうことに。彼の妹も行きたいというので、同乗。7000円は高いなあと思っていたが、道はトラックでも無理なんじゃないかと思うほどの悪路で、穴にはまらないように慎重に慎重に、ゆっくりゆっくり進む。トラックの運転席にはヘビメタ系のCDが多数。メキシコとヘビメタというのが、どうも結びつきにくいんだが....温厚で酒も飲まないガイド氏も実はヘビメタファンだった。
かなり進んだところで道を大きな倒木が塞いでいた。人力で撤去できるような木ではないし、ウィンチとかもついていない。ここまできて万事休すかと思ったが、「もうさほど遠くないので歩ける」ということに。確かにさほど遠くない距離に遺跡があった。
フランス人のチームが発掘を行っていて、出土品を入れている小屋があった。掘っ立て小屋に南京錠がひとつ。泥棒しようと思ったら、簡単に盗める。
マヤ遺跡は数々の盗難にあってきた。19世紀半ばに描かれた絵などと比較すると、彫像などの類がかなりの量、消失している。今はメキシコシティーか、あるいはアメリカのどこぞの富豪の家に置かれているかもしれない。盗難は最近でも多いらしく、石碑がまるごと一つ、チェーンソーで切られて、ヘリコプターで持ち去られたりしている。マヤパンを歩いていたら、ガイド氏が「ありゃー、チャック神の目玉が無くなってる!」というではないか。目だけ抜いてどうしようってんだろう。
リオ・ベックにはオロペンドロという大型の吊り巣を作る鳥の巣がある。雛が入っている巣が数十も下がり、ギシギシと揺れる様は壮観だった。(リオ・ベックに行きたいと思う方は、道の状況を代理店などに確認してもらうことをお勧めする)。
最も南、グァテマラ国境に近い自然保護区のど真ん中にあるのがカラクムルの遺跡だ。大都市で、かつてティカルと抗争を繰り返していた。ミラミッドもでかい。この遺跡に行く途中、数十メートル先をジャガーが横切った。ガイド氏共々、大興奮。さらに帰りにでかいガラガラヘビを見た。どちらもマヤ人にとっては重要かつ神聖な動物だ。

この地域で最も見たかったのが、ホチョブ、チカンナにある、怪物の口を模した建物だった。エクバランのものも同様だが、チカンナのものはメキシコシティーの国立人類学博物館に精巧なレプリカがあり、15年前に見て以来、どうしても実物を見てみたかった。数多くの彫像などが失われているが、それでも人間の建築史に残るユニークな建物だと思う。見ていて飽きない魅力がある。