池袋の銭湯

門の上の、目ヤニ兄弟。最初は「三兄弟」だったが、右端の一匹はカメラを見てすかさず逃げた。一番ぼーっとしていのが左端の猫で、すぐ近くまで寄ってもぼんやりしていた。目ヤニでよく見えないのかな。

またしても締め切り続きで泊まり込みが続いている。もうシャワーは寒いし、かといって一年近くほったらかしになっている風呂の掃除をする気力もなく、歩いてすぐの場所にある銭湯に行った。
とても古い銭湯だ。かなりぼろい。門の前に立派な石が置いてあり、昔は目の悪い飼い猫がしばしば入り口に座っていて、結構絵になっていた。
9時半くらいに入ると番台には70代半ばくらいの主人が。私の他に一人しか客がいない。よくやってるな、というのが正直な感想だ。今、燃料費も高騰しているので、こんなんで採算があうのかと思う。バブル前は結構古いアパートがあったようだが、今は風呂がついていないアパートも少ないだろう。
一度か二度、10年近く前に入ったことがあったが、そのときはもっとぼろかった。下駄箱は傘を差す穴が空いている木製のものだったが、これがプラスチック製に。浴場のタイルとか、少しリフォームした形跡がある。
ぼろいけれど、なかなか雰囲気はある。天井が高く、置かれている体重計やボロボロの木製のベンチは40年くらい前のもののように見える。トイレは外に木戸(!)のものがある。久しぶりに木戸のトイレを見た。もちろん水洗なんだろうけれど。一番の特徴は男湯と女湯の間、つまり、脱衣場と浴場との間の部分のど真ん中に馬鹿でかいウミガメの剥製が飾ってあることだ。タイマイっていうやつかな。ウミガメといえば浦島伝説ということで、水にかかわる商売に縁起がいいとされていたのかしら。
風呂の絵は大きなものが珍しく和歌山の渓谷の絵で、洗い場のタイル絵は富士山など。確か10年前は風呂桶は「ケロリン」だったと思うが、無地のものに変わっていた。よく湯船の横に並んでいるような、小さなホーロー製の広告なども無い。
430円はいい値段だけれど、気持ち良かった。跡継ぎがいるようには見えないので、主人が元気で、採算が合う限り続けるつもりなのだろう。
外に出て、そういえば、この風呂の名前は何だったっけ? と思って屋号を探すが見あたらず。毎日前を通っているのに、気にもしなかった。
ネットで検索してみたら、風呂好きの人のレポートが。これが4年前くらいのものだが、面白かった。
http://www.kt.rim.or.jp/~tsukasa/sento/Diary/tokyo/toshima/sinsakae.htm
特に質屋の広告で、
「富士の山ほど 札束積んで あなた来るのを 待つわたし」
と、あったというのが傑作だ。今日は、見かけなかったような気がするし、10年前は全く余裕がなかったので.....見てなかったんだろうな。
そうか、新栄湯という名だったのか。さすがに「浦島湯」ではなかったか......。娘が「銭湯」(スーパー銭湯でなく)に入ってみたいと言っていたので、また行ってみよう。

銭湯のぼろい木戸などを見て、池袋で仕事をするようになってしばらく、件の銭湯の近くに、おそらく地上げをしてそのままバブルが崩壊してほったらかしになっていた古いアパートがあったことを思い出した。木造のアパートだったが、廃屋となっていた一階の一つの部屋に、猫が住んでいた。換気扇の部分に穴が空いていて、そこから出入りしているのを何度か見かけたのだ。その頃、夜、仕事帰りに野良猫を呼んで、道にキャットフードをザーッと撒いているおばさんがいたが、おばさんが呼ぶと、この猫が換気扇の穴から外に出てきて、晩飯にありついていたのだった。