NHKの番組二つ

最近録画しておいたNHKの番組二つ。ひとつは11月12日に教育テレビで放映された、地球ドラマチック「知られざる古代文明(1)ラスコー 洞窟にきらめく星座たち」
地球ドラマチック」では、ときどき海外で制作された古代史関連のものを放映するが、今回はとても面白かった。ラスコーや周辺の洞窟壁画と月や太陽の運行、さらに天体との関連を考察している、フランスの女性の天文考古学者の仮説を紹介するものだ。

ラスコー周辺の壁画のある洞窟群のうち、かなりの割合のものが、夏至冬至春分秋分といった特異日の太陽光が内部に入る設計になっているという話は、冬至の朝日や夕日、春分秋分の朝日などが遺跡内に差し込むように作られている、アイルランドニューグレンジなどの遺跡群の構造を思い起こさせる。ラスコーは16000年ほど前、ニューグレンジは約5000年前と、年代は全く異なるのだが。
同じ地方で、青銅器時代の骨片に彫られた点の形が月の動きと符合するという話も、とても興味深かった。
近辺の岩盤に彫られた蛇行模様(これも青銅器時代?)が月の運行の周期を示したものではないかという話は、これもアイルランドナウスの縁石に彫られた同様の模様との相似が思い出されるものだった。
ナウスの石の模様と月の運行周期との関連を初めて論じたのは、アイリッシュアメリカ人のマーティン・ブレナンだ。ブレナンはアマチュアの考古家というより、美術畑の出身の人で、Knowthの岩絵に関して、とても独創的かつ説得力のある解釈を行ったが、考古学者で彼の仮説について言及する人はほとんどいない。だが、番組を見た印象では、波形と月の運行周期とを関連づける見方は、天文考古学の分野ではかなり支持を得ているらしい。
フランスの研究者は、国の考古学、天文学双方から正当な評価を受けていないという紹介のされ方で、金持ちのパトロンに研究室などを提供してもらっているということだったが、少なくとも、上記の話に関しては、ブリテン島周辺の石器時代の遺跡に関してはそれなりに認知されている話だ。ニューグレンジに冬至の朝日が差し込む構造になっているという話も70年代半ば以前は考古学会では全く相手にされていなかったというが、今はそれが人為的なものだということに疑いを挟む人はいない。

ただ、番組で紹介されたラスコーの洞窟内の絵が天体図、一種の星座を描いたものだという仮説には、かなりの無理があると感じた。
岩絵はあたかも洞窟の壁面の向こうの夜空を透視するかのように、位置も正確に描かれた天体図だという。岩絵が描かれた時代の星の位置をわり出し、岩絵と照合すると、角や足の先などのアウトラインのおもだった位置にちょうど目立つ星が当てはまるのだと。
だが先ず、岩絵を見る位置が半歩ずれたら、この「一致」は全く意味をなさなくなる。完全な平面に描かれたものではない岩絵を前にして、どの位置に視点をもってくるのかについて、詳しい説明が無かったように思う。
また、岩絵の中にいくつかでも、星の位置を示す点が打たれていたら、この仮説にもかなりの説得力が生まれるのだろうが、それらしいものがない。私これまで星の点が一切打たれていない、絵だけの天体図というものを見たことがない。

ブリテン諸島石器時代の岩絵には、たくさんの穴や同心円模様が一見ランダムに彫られたカップリングマークというものがある。これを一種の天体図だと考えて、実際の天体の姿と比較しているアマチュアの研究者なども少なからずいる。
星の位置と岩絵の関係を探り、星空の中に様々な相似を「発見」していくという作業には、方法そのものに無理がある。文字通り「星の数」ある点と点を結んでできる形は無限に近い。彼ら「観察者」は自らがあらかじめ用意した「見つけたい形」を「発見」しにいくことが多く、番組内で展開された「星図」論にも、似たような恣意性を感じるのだった。

もうひとつのNHKの番組、先週日曜の「NHKスペシャル」の素数の話、「魔性の難問 〜リーマン予想・天才たちの闘い〜」は、これまたとんでもなく面白い話だった。素数のもつ配列の法則性が素粒子の世界における法則性と通じているのでは、という話だ。
私は中学・高校の数学はからっきし駄目で、完全に捨てていたのだが、何故か数学の歴史などの話を聞くのは大好きだ。大学でも、もっとも刺激的だったのは、一般教養の数学思想史ともいうべき授業だった。
続けて、番組でも紹介された数学者の半生を描いた映画「ビューティフル・マインド」も観たが、これもなかなかいい映画だった。