アルジェリア、タッシリ・ナジェール岩絵撮影行・その7



昨夜とうってかわってすっきりと晴れた。朝、変化をつけるためガチガチのパンにはちみつとチーズを塗ってみた。悪くない。


ところで昨日からやたらとハエがたくさんつきまとっている。これは自分、相当ハエが好むような臭いを放っているのでは、なんせ5日もTシャツもズボンも替えていないし(とロバートに話したら、5日!と)。夜、テントの中で全身を入念に除菌シートで拭いたが、朝外に出ると、それでもハエが。どうもこのあたりはハエが多いことで知られているようだ。ハエが集まっているのは自分だけではなかったようだ。よかった。でもやっぱり鬱陶しい。




アンドラスが昨日の夕方見つけてきた新しいサイトを見に行く。状態はあまり良くないが、ダチョウが複数描かれている。ダチョウは黒い部分を赤で、首、足、羽根の白い部分を白で描いていることが多く、白が退色すると何の絵かわかりにくくなる。今回も後からダチョウの絵だったのかとわかるものがあり、写真で首が切れてしまっていたものがあった。
このシェルターの奥は下部がクシ状というか、足が並んだような形で風化しているが、これが長く延びていくと、有名な「ハリネズミ岩」(この日後半に見た岩)のようになるのだなと納得。ちょっとギーガーが作る造形にも似ている。




さらに北へ向かい、Oued Bouhedianeのいくつかのサイトを見る。赤い壁に白い塗料で、様式化された人物像を描いたサイトがあった。1920年代のイラストだと言われても信じるかもしれない、モダンな意匠。四角いバッグのようなものを持っているのが面白い。




タッシリにはアーチ岩、窓の開いた岩がたくさんある。世界にはアーチ岩をこよなく愛するアーチ・エンシュージアストと呼ばれる人たちがいて、タッシリは最もアツい場所として知られるが、彼らがしびれるような二連の窓岩があった。





ゲルタ(水場)で一休みし、近くにあるキリンの石彫画を見る。内側がとても丁寧に彫り込まれている。



大小さまざまな人物が重なるように描かれたシェルターがあり、見事だった。赤い絵の上に白い絵も重ね書きされている。ほとんどが長身で槍を持った戦士のような人物像だが、小柄で髪を結ったような、女性とも見える人物像も描かれている。もしかすると頭の部分に他の絵の一部が重なっているだけかもしれないが。





これから見るものはこの辺で最も不可解な絵の一つ、とアンドラスが紹介したのは、よだれかけがつながったような形。ラクダや馬の鞍につける装飾のようなものがかかれている絵もあるので、そうしたもののひとつかもしれない。



さらにOued Bouhedianeのサイトをいくつか見る。

二頭の白いキリンに丁寧に斑点が描かれた絵が印象的だった。シェルターの床にすり鉢状の穴がたくさんあいた場所があった。岩絵のある場所にはオーカーなどの石を細く挽いて絵の具を作るすり鉢が作ってあることも多いが、この数の多さはちょっと違う用途かもしれない。




雄牛の角の繊細な形。家(半円形)の中にいる女性と牛。1メートル以上ある大きな人物像もある。
立派な二頭のサイの線刻画が刻まれた大きな岩も見た。完全に日陰になっていたのでライトをあてて撮影。






この日のルートは幹線道からもかなり近くなっていることもあり、昔はかなり観光客の多いエリアだった。見ごたえのある奇岩が多い。今年出した『奇岩の世界』で写真選定中に見た岩も複数ある。極め付きは有名な「ハリネズミ岩」だ。初めてこの岩の写真を見たとき、観光目的で少し人為的に整えられたものだろうと思っていたが、ここは砂漠のど真ん中。近くに住んでいる人もいなければ、これによって得をする人もいない。トゥアレグの人がそういうことをするとも思えない。多くの人が岩に上って触ったり落書きしたりした跡あり、表面が滑らかになっている感はあるが、このように足が生えたように風化した岩は他にも複数あるのだった。





最後にキノコ岩が見えてきたので、「あ、これは写真撮りたいから停まって、お願い」と言うと、「最初から停まる予定だから」と。壁面にサイの彫り物があるのだった。この岩、広い枯川の真ん中にあってとても目立つ。数千年前も放牧する者たちの道しるべになっていたかもしれない。ロバートがとても時間をかけてこの岩を撮っていた。彼はあらゆる動物の中でサイが一番好きなのだ。絵の一部が影になっていたので、翌日もう一度寄ってもらえないかと頼んでいたが、却下されていた。




この日はTin Merzougaの奇岩の近くにある砂丘でキャンプする予定だったが、先客あり、少し離れた別の砂丘の横でキャンプ。砂丘の上に上がってしばし景色を楽しむ。砂丘の流紋は本当に美しい。海の底のリップルマークも好きだが。夕日があたると砂丘が真っ赤に染まるというのでしばし見ていたが、残念ながら夕日は雲に隠れてしまった。





砂丘の中腹で私がドバイのDuty Freeで買ったちょっと高いスコッチを飲む。