ペイジはアンテロープ・キャニオンという岩の回廊の近くの町として知られる。岩のカーブと中に差し込む光とが作り出す造形の美しさは近年広く知られるようになっていて、現在はツアーでしか入ることができない。私もこの日の11時過ぎに予約をして、日にちや時間の変更がきかなくなっていたので、どうしても400キロ移動してペイジに来ざるをえなかった。
集合場所に行くと、夕方からのツアーなどはまだ空きがあるようだったが、太陽が上にあって光が入ってこないと魅力は半減してしまう。ここはナヴァホの土地なので、ツアーも全てナヴァホが催行している。10人程度のグループに分かれて進んでいくのだが、ここにきてそれまであまり見かけなかったアジア系の旅行客ばかりになった。
堆積岩の層に入った亀裂が水の流れに押し広げられてできた回廊なのだが、岩面が複雑な形状をしていて、そこに上から入った光が独特な陰影を作り出す。岩は赤いのだが、光の具合で影の部分が印象派の絵のように紫がかった色に見える。美しい場所だ。
ただ、一緒に歩いたグループは、景色を見るというよりは自分たちの、とくに妻や彼女の写真を撮ることが主な目的になっている人が多い。上から光が差し込むフォトジェニックなスポットに来ると、真っ先に光の下に立ってポーズをとる女性がいる。周りよりも一歩先にさっと出るその反射神経がすごい。まず人がそこに入る前にその美しい情景を見て、さらには写真を撮るなりして、それから各自自分たちの記念写真を撮るというのが普通の感覚だと思うのだが、自分がスポットライトの下に入ることが最優先なのだ。公立公園のツアーなどだとガイドがその都度人を止めて、コントロールするのだが、ここは混み合っているし、ガイドたちも気にしていない。ハイシーズンはほぼ流れ作業だ。こんなに美しい場所に来て、静かに見るという感覚はないのか。そんなに自分が好きか? 複雑な感覚になりつつ短いツアーを終えた。
ここが有名な観光地になる前、少人数で入ることができた人たちは忘れ難い神秘的な体験だっただろうと思う。
ペイジの西側にはザ・ウェイブという、濃淡のある縞模様の砂岩が優美なカーブを描く、フォトジェニックな場所があるが、一日入場64人と決まっていて、入る人はくじ引きで決まる。ハイシーズンはほとんど確率的に難しいので、今回は考えずに他に行くことにした。ウェイブはたしかウィンドーズのデスクトップの背景に使われてから一気に知られるようになり、観光客が激増したのだ。岩肌が靴跡で汚れていくので、仕方なく人数制限するようになったのだろう。
ウェイブの近くにはホワイト・ポケットという白いメロンパンが連なるような不思議な地形が広がっているところがあり、こちらは是非行ってみたかった。地図を見ると道がつながっているようなので、4WDなら行けるだろうと思っていたのだが、Youtubeで検索してみると、本格的なオフロード車でも深い砂地にはまったりして、なかなか難しいルートのようで、これも断念せざるをえなかった。
ザ・ウェイブに似た感じの場所ニューウェイブに寄り、さらに奇岩トードストールを見に行くことに。ニューウェイブはなかなかよかった。色が少し鮮やかさに欠けるが、造形はザ・ウェイブっぽい。
トードストールは『奇岩の世界』に掲載していた。これも鮮やかな赤い岩で面白かった。周囲には白い土地が広がっていて、この北東の方にホワイト・ゴースト・フードゥーと呼ばれる白く細長いキノコ岩が並ぶエリアがある。これも『奇岩の世界』に掲載したもので、是非見てみたかったのだが、やはり事前に調べたところ、かなりアクセスが難しいようで断念せざるをえなかった。ピックアップトラックとかジープとかで行って、砂にはまったときのためにシートやらスコップやら持っていけばなんとかなるのかもしれないが、いずれにしても一日がかりで考える必要あるだろう。
奇岩を見たあとは、ザ・メイズ・ロックアートというペトログリフを見に、ザ・ウェイブやホワイト・ポケットのある乾燥したエリアの西側を南北に走るローカルな道に入る。最初は比較的平坦な道だったが、やがて轍が深くえぐれた状態になる。雨の後にぬかるんできて、この溝にはまったら抜け出すのは難しそうだ。
ザ・メイズは道路から少し草原を歩き、岩山の中腹まで上ったところにある。その名の通り、迷路のような模様が刻まれた岩で、写真で見るよりも面白かった。とぐろを巻いた双頭の蛇のような絵もある。眺めの良い気持ちのいい場所で、壁画サイトに歩いていくのはこれがラストかなと思ったのだが、まだ終わりにはならなかった。
ペイジにもう一泊して、翌日はグランド・キャニオンに行くか、ずっと東のペトリファイド・フォレストに行くか迷っていた。宿は両方のパターンでおさえてあって、本当は3日前くらいにどちらかをキャンセルするつもりだったのだが、どうにも決め切れず、結局、グランド・キャニオンではなく、ペトリファイド・フォレストに行くことに。最終日にかなりの移動距離になるのできついのだが、もう行ける機会がないかもしれないので。