700万アイルランド移民

ミラー、ワグナー『アイルランドからアメリカへ──700万アイルランド移民の物語』(茂木健訳、東京創元社)を読む。
移民をテーマにしたドキュメンタリー番組から生まれた本だという。訳者の茂木さんはアイルランドブリテン島のトラッド・ミュージックの評論で知られる人だが、200余頁とコンパクトながら、とても内容の濃い本だった。アイルランドのジャガイモ飢饉とアメリカへの大量の移民については、断片的な知識はあったが、改めて、渡米後の平均余命が7年(!)というような、当時のアイルランド人の置かれた過酷な状況について知ることになった。
本文にはアメリカに渡ったアイリッシュから故郷の親・兄弟・友人に宛てた手紙などが多く引用されていて、移民たちの様々な心情をリアルに伝えている。
国を離れた若い女性の手紙など読んでいるうちに、大学でジョイスの『ダブリン市民』を読む授業をとったことを思い出した。『ダブリン市民』は好きだったが、英語の授業で聞き取りにくいし、なんだか退屈だったので二回ほどしか出なかった。はなから単位はあきらめていたが、期末の試験は『ダブリン市民』の中のどれでも一つ作品を選び、それをト書きのあるシナリオにし、なぜ、そのような場面設定にしたのかを、「授業に即した」かたちで解説せよ、というものだった。授業の内容はさっぱりわからなかったが、「これは頑張れば、なんとかなるのでは?」と、私と私同様二回しか出なかった友人は、私が「イーヴリン」、友達が「アラビー」を選び、それらしくシナリオを書き、詳しく説明を施したのだが、結果的に、二人とも単位を落とした。これだけ力入れて書いたんだから、落とすことはないだろう、というのが、当時の私たちの率直な気持ちだったが、二回くらいしか出なかったくせに、大変な努力をしたように思っているその了見こそ問題だということが今はわからなくはない。