読売新聞/時事通信/私有地の中の遺跡

読売新聞の書評欄の中の「著者来店」というコーナーで『巨石』を紹介していただいた。取材に来られた片岡さんは私とほぼ同年代で、古代遺跡に関心の深い方だった。私の家族が私の極端な遺跡巡りにつき合っていることを不思議そうにしていらしゃったが、記事も少しそうしたテイストで書いてくださっていた。私は単に強引なだけだと思うのだが.....。それにしても、本の奥付に娘と一緒の写真を使い、新聞にも娘と一緒の写真が載っているので、両方見た方はよほどの子煩悩だと思うだろう。新聞に載った写真は私の選択ではないのだが...。娘は三歳のときに初めてイギリスに一緒に行ったが、おむつがとれたばかりだった、というか、私が「おむつがとれてない人は飛行機には乗れないんだぜ」と言ったので、それまでオマルにさえしようとしなかったのが、一緒に行きたい一心でその日から自分でトイレに行くようになった。イギリスに行って三日ほど経って、夜中に40度ほどの高熱を出し、熱にうなされていた。大いに慌てたが、翌朝にはケロっとしていた。医者に連れて行ったが、「見たところ、全く大丈夫そうだし、あなた方二人の方が参っているように見えるけど?」と言われた。飛行機に乗って、外国人ばかりの場所に着いて、車で目まぐるしく移動して、おまけに夕方手こぎボートで湖に出て、人でごった返しているパブで夕飯を食べた。あまりに急激な変化の連続で、知恵熱のようなものが出たのではなかったかと思う。

高知在住のイラストレータの方がご自身の近作のコピーと、高知新聞に掲載された『巨石』の紹介記事の切り抜きを送って下さった。時事通信配信の記事のようだ。カラーでDevil's Denの写真が載っていて嬉しかったが、記事を書いた方がこの遺跡がキャップ・ストーンという名前だと誤解したようだ。キャップ・ストーンは要するに「蓋石」であって、ドルメンの上に乗っている岩を指す呼称なのだが、本文で、キャップ・ストーンと繰り返し書いているので遺跡名と混乱させてしまったかもしれない。
Devil's Denはストーンヘンジやエイヴベリーと同じサーセン石を使ったドルメンで、非常に印象的な形をしている。現在は牧草地の中にあるが、昨年訪れたときは、牧草地へ入る道の入り口にちょうど牧場主のトラックが停まっていて、「見に行ってもいいですか?」と聞くと、「見たいというなら、俺はあんたを止めることはできない」と、「歓迎はしないけど、ダメとは言わない」というような、なんともいえない返事だった。ただし、隣の.畑に出来ているクロップ・サークル(ミステリー・サークル)を見に畑に入るのは止めてくれ、畑が荒らされて困ってるんだ、とのことだった。
私有地の中にある遺跡は多い。可能な限り許可を得てから入るのだが、断られたのは一度だけだ。スコットランド東部でピクトの石碑を見に、農場に行ったときのことだった。
数年前、鉄器時代スコットランド北東部の住民だったピクト人が残した石碑に興味があり、巡りあるいていた。ある農場の中にピクト人が船に乗っている絵が刻まれている石碑があることを知り、見に行こうかと思ったが、近郊のメイグルという町の博物館の女性に「行くのは止めといたほうがいいわよ。確かに珍しい絵が彫ってあるけど、石碑がある農場の主がフレンドリーでないから」と、忠告された。「フレンドリー」でなくてもいいから見せてもらおうかと、小雨降る中を遺跡のある農場を訪ねた。納屋で働く三人の年配の男たちに「日本から来たんですが、この近くにあるピクトの石を見せてもらえませんか」と言うと、彼らは互いに顔を見合わせ、「また物好きな奴が来やがったなぁ」という感じだった。うち一人が口を開き、「あるよ。確かにあるけど、ここ数日の雨で地面はドロドロ、腰の高さまで草が茂っていて、お前さん、たどり着く前にパンツまでグッショリになっちゃうぜ。止めとくんだな。」とのことだった。皆笑っていた。さらに「何分ぐらいかかるんですか」と訪ねたが、「ともかく止めておけよ」と、今度は明らかに拒絶されたので、それ以上頼みこもうとは思わなかった。ダメと言われたのはこの時だけだ。