古代文明と気候

ブライアン・フェイガン『古代文明と気候』(東郷えりか訳、河出書房新社)を読んだ。最近のこの分野の深化には著しいものがあるようだ。類書もいくつか出ている。自分の本でも、アイルランドの火山噴火による天候の悪化で、巨石文化に大きな転換点が訪れた可能性があるという最近の仮説を紹介した。人間の歴史は気候変動に大きく左右されてきた歴史だということがよくわかる内容だった。移動生活の狩猟民の一部が、気候の温暖化によって、ドングリを主食とする半定住生活に移行し、安定した食料供給を得るようになるが、ドングリという食用に大きな手間がかかり、貯蔵庫が必要な食材への依存が大きい分、急激な気候の変動に極めて脆かったことなど、とても興味深かった。どうも、大氷河期以降も、急激な温暖化や寒冷化など、地球の気候は度々大きく変化してきたらしい。より住みやすい環境を求めて移動することが容易だった狩猟民と比較して、ドングリなどの採集に依存する生活、後に、農耕を主とする定住生活は、気候の安定期には多大な余剰を生み出すほどの食料供給を得ることができた反面、気候変動によって致命的なダメージを受ける脆さをもっていた。冒頭で、著者はミシシッピー川の砂地の上に作られた町ニューオリンズと川の氾濫との闘いの歴史を紹介し、人間の生活環境の脆さの象徴的な事例としている。20世紀前半における堤防の建設によって100年に一度の洪水は防げるようになったかもしれないが、1000年に一度の大洪水に耐えられるか心配だと記している。本が出版されたのは2004年だ。翌年の大洪水によって、実際は100年ももたなかったことがわかったことになる。

古代文明と気候大変動 -人類の運命を変えた二万年史