ウィッカーマン

70年代のイギリス映画『ウィッカーマン』のハリウッド版リメイクが公開されているようだ。カルト・ムービーとして根強いファンがいる映画なのだが、日本ではなかなか見られず、2年くらい前にDVD化されて私も初めて見た。主演はドラキュラものから離れて新しい方向を模索していたクリストファー・リーで、スコットランドに、キリスト教が入る前の異教的風習を残している謎めいた離島があり、行方不明の女性を探して、本土から警察官が調査に入るという話だ。異教的風習を「残している」といっても、ある時期に島を所有していた地主が意図的にキリスト教化される前の様々な信仰や風習を調べて、島を「異教の島」に作り替えていったという設定だ。ストーン・サークルの中央で火を焚いて、女たちが裸で踊ったりしている。快楽礼賛というのが島の基本方針なので、小学校では子どもにメイ・ポールの祭り(「五月祭」)は男根崇拝なんですヨ、と、楽しく教えている。パブに入ると、みんなで猥歌を楽しく歌っている。宿に泊まると隣の部屋で若い娘が壁を叩いて誘ってくる。島に調査に入った若い警官は極度に敬虔な人物で、結婚を間近に控えているが童貞を守っている珍しいくらいの堅物だ。島民の不道徳ぶりに憤りつつも行方不明の娘の消息を追ううちに、人型の檻に生け贄を入れて焼き殺す島の祭の秘密に気づく。巨石、メイポール、グリーンマン、モリスダンスの装束、そして古代の生け贄に使われたウィッカーマンの檻など、イギリスの異教的なモチーフがキッチュな形で勢揃いする映画だ。今我々が見ると、ユーモラスというか、ばかばかしい可笑しみに溢れているのだが、公開当時のイギリスでは、「すごく不気味な」映画として受け止められ、不道徳な場面やら言動やらが問題になってまともに公開されることなく、大幅にカットされ、オリジナルのフィルムは廃棄されているという。ハリウッド版の舞台はどこなんだろうか。いずれにしても、オリジナルの重要な要素であった「エロスに歯止めのない島」というのは、今となってはホラーの設定になりえるようなものでもないし、だいたいニコラス・ケージが主人公だとすると、敬虔な童貞のクリスチャンというのは全くあり得ない。
ウィルトシャーの、ストーンヘンジからそう遠くない、イギリスで最も大きなストーン・サークルがあるエイヴベリーの、遺跡の中にある民宿「ザ・ロッジ」にはこの映画のスチール写真がたくさん飾ってあり、ファンにとってはとても楽しい宿だ。トイレには小さなウィッカーマンが置いてある。

ウィッカーマン 特別完全版 [DVD]