ヒストリー・チャンネル/ブーディカ女王

ケーブルテレビにヒストリー・チャンネルというのがあり、最近、頻繁に録画して見ている。
ヒストリーといっても、いわゆる歴史番組よりも、「失われた世界の謎」「吸血鬼の真実」「未確認モンスターを追え!」など、キワモノ的なテーマのものが多い。なので、好きなのだ。
「ザ・ユニバース〜宇宙の歴史〜」(これはキワモノ的な番組ではないが)も面白い。連続ものなのだが、月に火山活動がある可能性があるという話を初めて知ったし、暗黒物質、暗黒エネルギーについて特集した回も面白かった。銀河をまとめ、動かし、星が誕生する場を造っているのは未知の物質「ダーク・マター」であり、宇宙をすごいスピードで押し広げているのは、これまた観測できない未知の力「ダーク・エネルギー」だという話は、以前仕事で携わった「宇宙大全」で知ってはいたが、宇宙空間に存在する物質のうち、星やガスなどの既知の「物質」はほんの少しで、圧倒的に多いのは観測すらできていない正体不明な「暗黒物質」であり、これは今こうしているうちにも地球を大量に貫通していて、ほとんど地球を構成している物質の原子核接触することないため、今までただの一つの粒子すら観測できていないこと、宇宙空間を押し広げている未知のエネルギーが、これまで「無」であると思われていた真空空間に満ちあふれていて、いずれは宇宙全体を冷え切った「死の」世界に導くとみられていることなど、改めて驚くのだった。私たちが教わった物理学が根底から覆される可能性がある話なのだ。
高校生の時分にカール・セーガンの「コスモス」なる宇宙の成り立ちに関する番組があった。宇宙に存在する物質は全て星の中で生まれたもので、我々は皆、星から生まれた「星の子」なのだ、という説明があったのだが、実は星なんてものは、ほんの「彩り」みたいなもので、我々は遠くから夜景を眺めるようにして宇宙を見ているが、無数の明かりやネオンサインを支えているのは見えない物質、構造で、こちらこそが宇宙の主役なのだ、という話。

パタゴニアに「巨人」伝説を追う話も面白かった。パタゴニアには巨人伝説があり、パタゴニアという言葉そのものが、巨人の足跡という意味らしい。
かつてパタゴニアに住んでいた先住民テウレチェ族は長身屈強な体躯をもち、しばしば「巨人族」とも呼ばれていたらしいが、入植したスペイン人によって絶滅させられた。このテウレチェ族の伝説に出てくる「巨人」は、どうもかつてパタゴニアに生息していた二足歩行する巨大なナマケモノではないか、もしかすると今でもどこかにいるのではないかというのがテーマだったが、「巨大なナマケモノ」という言葉そのものが凄い響きなのだ。
石器時代の住居跡には、人間に飼われていたとみられる痕跡があるらしい。体毛の下の皮膚は硬い骨片に覆われていて、数千年前の毛皮も残っているのだが、これが「矢が刺さらない」というテウレチェ族の伝説と符合するのだそうだ。であるから、数千年前に絶滅したと考えられている動物が、今でもどこかに生息しているのではないか、と。

ブリテン島の半分がローマに征服された後、反乱を起こした女王、ブーディカの特集も面白かった。日本ではボウディッカという名前の方がなじみ深かいと思う。
西暦60年の話だ。現在のイングランド北東部に住んでいたイケニ族の女王ブーディカが、ネロ時代のローマに対して反乱を起こし、数万という軍勢を率いてローマの入植地を壊滅させた後、現在のウェールズ北西のアングルシー島でドゥルイドを虐殺した将軍の軍隊に敗れるまでの話だが、どのように移動し、どのような経過で敗れたのか、詳しく再現している。
ブーディカは王であった夫の死後、王位を継いだのだが、女が王位を継ぐことなど認めなかったローマに公衆の面前でむち打たれ、娘二人を陵辱される。
復讐に立ち上がったイケニ族に他の部族も参加し、軍勢は数万という規模だったという。彼女が率いて攻め落とした都は、徹底的に焼き払われ、今でも地面を掘ると大量の灰が出てくるらしい。
反乱軍はブリテン島にいたローマ軍を圧倒する数で、ローマ軍をブリテン島から排除できる可能性をもっていたが、統率力と戦術に長けたローマ軍に敗れ、最終決戦の場に数万という屍を残す悲惨な結果で終わるのだが、未だにその戦場がどこだったのか、わからないらしい。ロンドンを焼き討ちにした後、アングルシーから戻った将軍と対峙したのだから、イングランド中部なのだろうが、これがみつかったら、おそらくイギリス史の大変な発見になるに違いない。
ブーディカは腰まで伸びる赤毛の女性で、長身だったと記録されているが、番組のブーディカ役はシガニー・ウィーバーみたいな顔のスポーティーな感じの女優だった。「戦う女」というと、そういうイメージなんだろうか? もうちょっと彫りの浅い、鼻の低い顔の女性の方がそれらしかったように思うが。
いずれにしても、ブリテン島の歴史は血まみれなのだ。

VISIBLE宇宙大全
古代のイギリス (〈1冊でわかる〉シリーズ)