『虫に追われて』

ときどき昆虫の標本など買うことがあるし、夏休みに子ども向けに昆虫標本展示会などあると、娘と見に行くことも少なくない。今森光彦氏の昆虫の写真が大好きだ。昆虫の古い博物画などもいくつか購入した。中米で光り輝く蝶や馬鹿でかいキリギリスなど見ると、大いに興奮する。
名刺にもトンボの羽の写真が入っているので、初めて会った人に「もしかして、昆虫家(むしや)なんですか?」と聞かれたこともあった。
こんな感じで、昆虫は好きなのだが、私が「虫好き」の部類に全く入らないことは、よくわかっている。虫のことを考えなくても普通に生きていけるからだ。

「継続的に虫のことを気にしている」人たちが結構な数いるのだろうな、ということは薄々知っていた。また、昆虫の標本を扱う商売はどのように成り立っているのか、関心もあった。
川村俊一著『虫に追われて』は、「昆虫が人生のど真ん中にあり続けた人」の、なんともディープな半生記だ。昆虫標本を販売する仕事をされている。壮絶なのが、本の半分を占めている、インドで「無許可で昆虫を採集した(ご本人は許可が必要だということを知らなかった)」ことによって突然逮捕され、弁明の機会も与えられないまま、半年間劣悪な環境の収容所に入れられた大変な体験の記録だ。恐ろしい。そうした体験を超えてなお虫を追う著者の「昆虫愛」もまた、あまりにディープなのだ。


虫に追われて―昆虫標本商の打ち明け話

虫に追われて―昆虫標本商の打ち明け話