NHKの新番組「ワンダーXワンダー」というやつで、メキシコのチワワ州で発見された巨大な石膏の結晶がある洞窟を紹介していた。
写真では何度か見ていたが、やはりすごい景色だ。発見した鉱夫が「他の星に行ったような感じだった」と言っていたが、決して大げさでない。
数年前に公開された「ザ・コア」というSF映画がある。地球の中心に向かって進んでいくと、マントル(?)の中にひとつの都市くらいある巨大な球状の岩が浮いていて、中が巨大な結晶が林立する晶洞になっているという場面があった。映画としては今ひとつだったが、地球の内部に巨大なジオードがあるという設定が面白かった。チワワの洞窟はほとんどそんな感じだ。
中は灼熱地獄だという。
洞窟というと、大学時代に、洞窟好きな友人がいて、連れられて本栖湖の氷穴に潜ったことがあるが、実に面白い体験だった。
入り口からザイルで下に降り、「さっ、これからさらに下に入るから」という友人が指さしたのは、「こんな所を通れるわけないじゃん?」というようなちっぽけな穴だったが、人の体は意外に柔らかく、くねくねと曲がる穴と潜ると奥に見たこともない大きな氷の氷柱が生えたスペースがあった。洞窟好きの人にとっては初心者むけの場所だったようだが、印象的な体験だった。
メキシコは洞窟の宝庫だ。ユカタン半島の地下には数え切れないくらい多くの洞窟があり、マヤ人たちは地下世界を常世というか、命の懐と考えていた。
ユカタンのマヤ遺跡の巨大建築には鉤鼻の神の顔があしらわれている。かつては雨神の像と考えられていたが、これは地下に住む、ウィッツと呼ばれる神の顔で、ピラミッドなどの建造物は山と地下世界を模したものだということがわかったのだという。
公開されている洞窟のひとつ、バランカンチェに入ったことがあるが、とんでもない湿気と気温だった。日本で洞窟に入るというと、涼しい印象があるが、ただでさえ高温多湿なユカタンで、さらに湿気と温度が上がるので驚いていると、すぐにレンズが曇り、まともに写真も撮れなくなってしまった。数百年も宗教施設として使われていた形跡のある場所で、地元のメディシンマンが秘密にしていた場所を、洞窟探検家が見つけたのだ。中には土器やトウモロコシを挽く道具が沢山奉納されていた。おそらく、似たような未発見の洞窟が数多くあるに違いない。
それにしても、洞窟探検の世界は深い。光無き奥へ奥へと進む勇気というか偏愛、いや、「男気」が唯一のエンジンなのだ。
有毒ガスが充満しているところもあるし、酸の滴が落ちてくるところもある。孤独かつ危険なチャレンジだが、不思議と「こんなに男気を発揮している自分は結構、かっこいいのでは」という邪念が芽生えることもあるようだ。
私が大好きな「辺境作家」高野秀行さんは、早稲田の探検部出身で、初めてのデートを何故か洞窟潜りに選び、小さな穴を共に這いつくばるという希有な体験をセットしたが、「何故か」二度目のデートは無かったと書いていた。しかも、目的の洞窟に行ってみると、入り口にキャンプしているカップルがあり、男はやはり早稲田の探検部のOBだったという落ちがついていて大笑いした。
私の友達も男子校の「洞窟探検部」の部長(とはいっても、たしか部員は二人だったと思うが)だった。学園祭で洞窟の世界をリアルに再現したセットを作り、「もしかして、これは来場する女学生にもてるかもしれない」という不可解な期待にも胸ふくらませたようだが....洞窟で発揮される「男気」はなかなか難しいのだ。
チワワの巨大結晶の洞窟は、銀と鉛の採掘で地下水をくみ上げたために現れ、後10年もしたら閉山になり、再び水没する運命らしい。いずれ少しは見学できるのかなと、微かな期待があったのだが、そんな簡単なもんじゃなかった。