コロンビア・アマゾン壁画紀行 その6

  この日はグアビアレ川をボートで東へ移動して、ピンクの河イルカのいる湖に行く。直線距離で50キロ、実質的には60キロ以上の距離になる。早朝に出発した。

 魚市場のある船着き場に行き、高速艇に。同行者はドイツ人夫妻とコロンビア人夫婦。川では投網で魚を獲るボートといくつもすれ違う。市場ではナマズが売られていた。巨大なものは2メートルにもなるという。

 

 

 この日は予備的な意味でも考えていたので、場合によってはCerro Azulの二度目の訪問のために行くのを中止した壁画サイトを、この日にあててもいいかなと思っていたが、山とは違う鳥や野生動物を多く見られるというので、参加することに。

 ボートから陸に上がったところにオロペンドラとは違う、少しこぶりのYellow-rumped Cacique、キゴシツリスドリの一種の巣がついた木があった。面白いのは鳥の巣が蜂の巣を囲むようにしてついていることで、この鳥の巣は蜂の巣のある木に巣をつくる習性があるのだと。サンチアゴは蜂がこの鳥の声が好きだからと言っていたが、そんなはずないだろう。少しでも卵や雛を襲う者を避けるためなのだと思うが。

 

 

 湖に向かって歩く。壁画のある山地とはやはり植生が違う。ムクナ(ハンバーガビーンの一種の豆)の木があり、細かいトゲのついた鞘がなっている。

  湖に出るボートを出している農家に寄り、話を聞く。彼もこの場所が世界的な観光地になることを願っていると。

 

 

 湖に出る途中の道でコロンビア最大の鳥Horned screamer=ツノサケビドリを見る。サケビドリという名前だが、声は聞けなかった。

 河イルカのいる湖は半月型の湖で、雨期にはグアビアレ川とつながるようだ。ガイドのサンチアゴがロープを投げるとイルカがやってきて、戯れにロープを咥えて引っ張る。ピンク・ドルフィンと聞いていたが、有名な全身がピンクのイルカと違って、ほぼグレーで、お腹がピンク色っぽい白ということのようだ。観光用の絵には鮮やかなピンクで描かれているが、それはちょっと宣伝に偽りありという感じ。水が濁っているので水上に出た部分しか見えないが。

 帰国後に検索したところ、アマゾンの河イルカは三種いて、一番大きなタイプは全身ピンクのもの、この湖で見たのは腹がピンクの中くらいの大きさのタイプなようだ。

 サンチアゴに水着を借りて湖に入ったが、イルカがふざけて何度も体当たりしたり、つついたりしてきた。「日本人が珍しいからじゃないか?」と。そんなわけない。

 帰りにはリスザルも近くで見られたし、山では見なかった鳥も何種類も目にして、たしかにバード・ウォッチャーや動物に興味ある人にはとてもいい場所だ。グループで行くと大声で話しながら歩く人がいて、猿などは逃げてしまうのだが、サンチアゴが俺たちは先に行って動物を見つけようぜ、と。彼はネイチャー・ウォッチングのいいガイドになると思う。鳥の鳴き真似もうまい。

 

 

 楽しい一日ではあったが、それまでほとんど刺されなかった蚊(だと思うが)に両腕やひざ下を何十ヶ所も刺される。やっぱり水辺は蚊がすさまじい。これが猛烈に痒くなって帰国後も数日辛かった。今回は前回の体験を教訓に、ムヒアルファを持参したが、あまり効かない。また、なぜか私だけ背中を蜂に数ヶ所刺された。これまた、「日本人を一度刺してみたかった」んじゃないかと。そんなわけない。

 農家に戻って主人の作る魚の煮込みを食べる。これがコロンビアで食べた魚料理の中では一番おいしかった。ナマズだと思うが。食事の際には民家でも食堂でも、フルーツを絞ったジュースが出る。あまり濃い味のフルーツでなく、グアバとか、パッションフルーツとか。薄味なのだが、これがおいしい。

 

 

 町に戻り、約束通り空港近くのホテルに移動した。グレードの違いに驚く。バーがあるのもうれしい。最後の一泊はツアーに含まれていないので自費になったが、一泊5500円くらいだった。ボゴタで泊まったホテルと同じくらいだが、これは結構値段の高い方だ。Casa Piedraは帰国後に調べたら一泊3000-3500円くらいだったが、おそらく食事込みなんじゃないかと思う。でないとこちらはちょっと高めという感じだ。

 この日は夜、町外れの先住民のコミュニティに行き、伝統的な編み細工やダンスを見、食事をするイベントに参加。これもツアーに含まれていた。サン・ホセに住んでいるのはパヌレ族=Panuréの人たちで、コミュニティはサン・ホセの町中にある。周辺に住んでいた人たちが町に移住してきたのかと思いきや、元々住んでいた所が町になったということだ。ツアーにこれが入っていたのを見たときはすごく観光化されたものなんだろうと思っていたが、そうでもなかった。

 英語で椰子の葉を裂いた紐で編んだカゴや袋などの細工の説明、ダンスの説明をするのはまだ20代半ばのヤスミン・ガビリア=Jazmín Gaviriaで、彼女は伝統工芸の存続のためにSUASEというブランドを作って普及・販売を行っている。

 ダンスは男の子が笛を吹きながら女の子を誘っていっしょに踊るようなスタイルで、今回は子どもだけで踊っていた。男の子たちは緊張しつつ一生懸命踊っていたが、女の子たちは、あまり気がすすまない感じで、男の子の手をにぎりたがらない小学校のフォークダンスみたいな感じだった。

 伝統的な食事として出されたのは、ナマズの薫製、キャッサバのパン(といっても平らに伸ばしたタピオカといった感じ)、プラタノ。くせもなく、おいしかった。

 コロンビアの先住民のカゴ細工はいろんなタイプのものがあり、パナマとの国境の方に住んでいる部族では、鳥などの具象的なモチーフを編み込んだ見事なものもあるが、この人たちは幾何学的な模様一択であるようだった。

 グアビアレ川は汚染されていて、町の近くの魚は食べられないというようなことを言っていたのが気になった。ブラジルのアマゾン川では砂金の採取が盛んに行われていて、水銀を垂れ流しているため、先住民に水俣病が広がっている。違法操業なので厳しく取り締まらなくてはいけないのだが、ボルソナロ政権下でほとんど野放しになってしまったという。

 

 

 赤黒のワイルーロの実を使ったイヤリングがあり、このワイルーロがメキシコやグァテマラで見る丸いものとちょっと違うタイプだったので、そのイヤリングを買って、この実はもっとないですか?と聞くと、奥からたくさん持ってきて、サービスでくれた。今日は森でムクナの実や回転する種などを拾った。『世界のふしぎな木の実図鑑』の著者である山東・小林両氏に持って帰ろうと思う。