ユタ・アリゾナ壁画紀行 4日目

この日も移動の長い予定だ。まず、70号線を西に大きく移動して、エメリー近くのロチェスター・パネルを見に行く。このペトログリフは今回の旅の主な目的のひとつだ。ネットで画像検索すると、壁面の一部に影がおちている写真がある。これは避けたい。何時頃に行ったらいいかが問題だった。flickrでちょうど6月上旬に撮影した画像を挙げている人がいて、きれいに陽があたっている。それが午前10時頃に撮影されたものとわかったので、まず午前中に行くことに。

ロチェスター・パネルは渓谷を見下ろす断崖の上部にある、表面の滑らかな焦げ茶色の岩塊に彫られたペトログリフだ。堆積岩の表面が酸化などによって黒ずんでいるのを、デザート・バーニッシュと呼ぶが、この地方のペトログリフはこの黒い表面を削って白っぽい線を出す方法をとっているものが多い。色の濃淡がはっきりしているので絵柄が確認しやすい。

 


ロチェスター・パネルは虹のように見えるアーチが印象的な絵で、動物や人物などがぎっしりと描き込まれた、どこか世界絵図のような印象を与えるものになっている。フリーモント文化に属すると考える人が多いようだが、もう少し古いバリアー・キャニオン・スタイルのものだという人もいるらしい。

私はこのパネルに描かれた動物、特に狼のような四つ足の動物の絵が大好きで、これを高解像度で撮影したかった。ちょうど午前10時頃に着くと期待していた通り、全体に光が当たる良いコンディションで、ゆっくりと撮影できた。

 


壁画は大きくはがれ落ちている部分があり、これは人為的なものらしい。絵を剝がして持ち去ろうとした人がいるということだ。また、近年も自分の名前を書くなどする者がいる。周囲に何もない場所にわざわざ車で見に来るのだから、関心が無いわけではないだろうに、なんでそこに自分の名前を彫りたくなるのか全く理解できない。そんなに自分の名前が好きか。

ゆっくり時間をかけて撮影した後は再び70号線を東に戻り、二ヶ所のサイトを巡る予定だったが、ガソリンが少し心もとなくなってきた。この後に訪れる場所はいずれも町から遠く離れた場所で、最後はずっと北まで田舎道を走っていかねばならない。おそらく大丈夫だろうが、万一ということもあるので、ガスを入れてからにしようとガソリンスタンドの表示を探して高速を走るが、これが全く出てこない。なんと、結局グリーン・リバーまで戻ることになった。なんという無駄か。

この次に訪れたのはHead of Sinbadという場所の絵で、これも是非見たかったのだが、最後かなり細いオフロードに入るのが心配だった。YouTubeなど見ると、道が細くてフルサイズの車は横面をこする可能性あると。こすって傷がつくと請求される可能性ある。

Head of Sinbadは小さな素朴な絵だが面白い。バリアー・キャニオン・スタイルだと思うが、精霊像がちょっとかわいい。角張った頭に大きな目は「E.T.」とも呼ばれている。確かに似ている。精霊と蛇に深いかかわりがあることがわかる。流星のような尻尾のある丸いものは何だろうか。興味はつきない。

この絵が描かれた岩山は連結された客車をひいている機関車のように見える岩山、ロコモーティブ・ポイントでも知られている。

 



次に細いオフロードを戻り、70号線をまだいて25キロほど北上し、Buckhorn Washの大きな壁面へ向かう。道は途中から未舗装なのか、ずっと昔に舗装されたものが荒れているのかよくわからない感じになるが、概ね走りやすかった。

Buckhorn Washの絵はバリアー・キャニオン・スタイルのペインティングで、有翼人の絵が印象的だ。蛇を持つ人物も複数描かれている。持っているというより、片手が蛇になっているような表現だ。黄色い色が使われているところがあるが、これはフリーモント文化の時代に後から加えられたものかもしれないという。人物像のちょうど胸の辺りに大きく削った跡があるのも特徴で、これがいつごろつけられたマークなのか、どういう意味があるのかなど、わかっていないと解説板にあった。

 

 

これでこの日の壁画サイトは終わり。あとはさらに60キロ以上北上してプライスという町まで行く。明日はナイン・マイル・キャニオンという壁画の多い渓谷に入り、それを見た後はずっと南に下っていく必要があるので、朝が早い。

プライスに行くのに、一度幹線道に戻るか、このまま砂利道を進むか迷うところだったが、Google Mapの予測時間などが結構正確なので、これを信用してそのまま北へ向かうことに。道は悪くないのだが、ずっと例の警告マークが出ている。

1時間以上走って、ようやくプライスの宿の駐車場につき、タイヤを見てみると、後ろの左側のタイヤがあきらかに空気が抜けている。ぺちゃんこではないが、大きく減っている感じだ。警告マークはこれのことだったのか。パンクである可能性も低くない。

宿の近くのガソリンスタンドで、このへんで空気圧をみてくれる所ありますか?ときくと、隣の洗車場でやれると。

日本だとセルフのスタンドでも整備ができる人が一人二人はいて、オイルやら空気圧のチェックはしてくれるものだが、こちらのスタンドはそうした機能はない。ガソリン代と併設された売店(スナックやドリンクだけでなく、ホットドッグなども売っているコンビニ的なものが多い)の会計をするのが仕事だ。

隣の洗車場に行くと、バイトだと思うが、パーカーを来た若い男の子が出てきた。「これ、パンクかなぁ」と相談。「漏れる音は聞こえないね」「空気入れてみようか?」と彼。一応四つ全てのタイヤに空気を足してもらった。

もしパンクだったら、修理してくれる店は近くにあるか尋ねると、ちょうど道を挟んだ向かい側にタイヤ屋が見えるでしょ、今日はちょうど閉店の時間だけど、朝8時からやっているからと。

「混んでなければ数十分で直してくれるんじゃないかな。混んでたら半日?」と彼。8時からか。7時には出発したかったんだが──。半日かかるなんてことになったらもう予定を大幅に見直す必要がある。こんなとき、宿を予約してしまっていると融通がきかない。

この男の子は本当にいい子で、9時までやってるというので、2時間くらいしてもう一度空気圧を見てもらうことに。

宿に戻って夕飯を食べ、8時過ぎにもう一度見てもらうと、「やっぱパンクだね。もう半分くらい抜けてるよ」と。

あぁ....。これを怖れていたんだ。ラフロードを走るとどうしてもパンクのリスクがある。それにしても昨日から警告マークが出ていて、ずいぶん長い時間かけて空気が抜けたものだ。どこで穴が空いたんだろう。なんにしても町から遠い山の中で空気が抜け切らなくてよかった。マニュアルもないので、まず工具がどこにあるのか探さなくちゃいいけない。スペアタイアは車体の下についているが、こういうタイプのものを外した経験もないし、ジャッキをどこにセットすればいいんだっけ? といったかんで、きっとすごく時間がかかったに違いない。

部屋に戻って、どうしようか逡巡した後、dollerのカスタマーサービスに電話する。電話で英語で話すのはなかなか難しい。チャットがあると楽なのだが、電話しかなかった。

ダイヤモンドという女性が応対してくれたが、とてもわかりやすくゆっくり話してくれた。修理して領収書をもらって返却時に提出すれば良いと確認。無断で修理すんなとか、指定の修理工場に持っていけとか、そういう面倒なことは言われなかった。

ウォルマートがあったので、Tシャツとバナナとオレンジを買う。キャンプ用のガスキャニスターも売っていたが、大きなサイズのものだけだった。ウォルマートは本当に安い。Tシャツ6ドル、ジーンズ23ドル程度なので、UNIQLOより安いんじゃないか?なんにしてもこんなものがそこら中にあるんだから一般の個人商店なんて全く太刀打ちできない。ウォルマートがいかにアメリカの町を破壊してきたかというドキュメンタリーを以前テレビで見たことある。