ユタ・アリゾナ壁画紀行 3日目

朝早く起きて、ホースシュー・キャニオンに向かう。最後は約1時間のオフロードで、この道がコンディションが悪いときは通常の車では難しいとあちこちに書かれていたので4WDを借りざるをえなかったのだ。道は概ねすごく平坦だったが、一ヶ所砂漠のようになった場所の脇を通り、ここがかなり砂が溜まっていた。砂の深さによってははまりこんでしまうこともあるのだろう。

 


谷に降りるポイントに着くと、すでに3台車が停まっていた。大地の裂け目のような谷に折り返しながら降りていき、底に着いてからは枯れた河床を歩いていくのだが、ここで壁画探訪最大の間違いをおかしてしまった。ここは歩くルートなどを何度も見て、強く意識していたはずなのだが、それがかえっておかしな思い込みを生んでしまったようで、谷に降りてから逆方向に歩いてしまったのだ。足跡がそちらの方向にもついていたのも間違いをおかした原因でもあったのだが。しばらく行くと足跡が消え、iphoneを見ると道をはずれているように見える。GPSの誤差なのか? 勘違いしていることに気付かずさらに進んでしまい、そもそも逆方向に入っていたことに気付くまでかなりの時間と体力をロスしてしまった。

 

谷に降りたポイントまで戻り、正しい道へ。なんとも情けないミスだった。

この谷にいくつかの壁画があるのだが、最初はハイ・ギャラリーと名づけられた、文字通りかなり高い場所に描かれた絵だ。

ユタの壁画にはいくつかのスタイルがあるが、そのうちのひとつが「バリアー・キャニオン・スタイル」と呼ばれるペインティングで、年代は紀元前2000年から紀元500年頃のアルカイック期のものとされている。細長い、大きな人物像が特徴で、精霊像と考えられている。頭に角やアンテナのようなものがついていることも多い。

 

ハイ・ギャラリーから少し進んで川の対岸の壁面に、ホースシュー・シェルター・サイトと呼ばれる小規模な壁画がある。少し絵のスタイルが違うように見えるが、年代の異なるものなのかどうかわからない。

 

 

さらに進み、カーブする川の流れに削り込まれて大きな半円型の半洞窟のような形になった場所にアルコーブ・ギャラリーと呼ばれるサイトがある。やや素朴だが細長いバリアー・キャニオン・スタイルの絵だ。

 

ようやくたどり着いた最も重要なグレート・ギャラリーは長さ60メートルにわたって精霊像が並ぶ壮大な壁画だ。見事な壁画であると同時に、この場所が特別な場所であることが実感された。

左端のグループの大きな人物像は長さ2.5メートルほどある。壁画が書かれた壁面が一部崩落しているが、これらの破片などを分析した結果、絵が掛かれた年代は紀元1年から1100年の間であるという興味深い調査結果がある。

撮影している途中、レンジャーの女性らしき人が来たが、その後はずっと一人だった。壁面の前に佇んでいると精霊たちがこちらをじっと見ているような感覚になる。往時の人たちもここで精霊と対話をしたのかもしれない。もっと長くいたかったのだが、バカな間違いをおかした関係で時間が押しており、戻らざるをえなかった。

 


この渓谷はさらに南に続いていて、ブルージョン・キャニオンと呼ばれるエリアにつながっている。ここはエーロン・ラルストンという登山家が落ちてきた岩に腕を挟まれ、自ら腕を切り落として脱出した場所として知られている。ダニー・ボイルが『127時間』という映画にしている。

帰り道で日本人の女性と米国人男性の二人連れに会った。彼女はラスベガス在住でロックアート・サイトを精力的に訪れているとのことで、前日はゴブリン・バレーのキャンプ場にいらしたとこのこと。この後はキャニオンランズ国立公園のアクセスが難しい場所に絵を見に行くということだった。

レンズ三本と三脚と水を2リットル持って降りたので、登りはさすがにきつかった。しかもこうなるともうどうかしていると思うのだが、また途中で本来の道を逸れてしまい、戻るという失態をおかしてしまう。脳の老化だろうか。いずれにしても今回の旅でiphoneGPSはかなり正確で、圏外でもGoogle Mapはとても有効だということを知った。

自動車に戻ったのは約7時間後。長くても6時間と見積もっていたので、次に行かねば。前日にゴブリン・バレーを見ておいて正解だった。近くに壁画サイトがあったが、これはカットして一気に北に上がり、高速70号に乗り東へ。この日の夜宿泊するグリーン・リバーの町を通過して、Sego Canyonという場所に入る。ここは一ヶ所の岩山にバリアー・キャニオン・スタイルのペインティング、フリーモント文化のペトログリフ、より後代のユート族によるペインティングが隣り合って残る場所だ。やはりバリアー・キャニオン・スタイルの絵が面白い。よくヒストリーチャンネルの「古代の宇宙人」に登場する、目の大きな頭にアンテナのような突起がついた人物などある。宇宙人説はともかくとして、異形の絵は面白い。精霊像と蛇のコンビネーションも特徴のひとつだ。道路際にある壁画だったので、比較的容易に見られてよかった。

 

 

この日の予定は一応これで終わり。西のグリーン・リバーの町に戻り、安モーテル、その名もバジェット・イン(格安宿)に。フロントにいたのはレオン・ラッセルを思い切り汚くしたようなタトゥーだらけのじいさんだった。ドアもガタガタで、チェーンロックがついているので、チェーンを持ってみると、ドアの木枠ごと外れて倒れてきた。なんにしても寝られれば問題ないのだが。

ところで、この日から例の後ろのハッチが閉まっていないというアラームが鳴らなくなった。どうもトランクルームのシートが後ろにズレぎみで、センサーに反応していたようで、このへんを整えてから後は問題なく、ストレスなく運転できるようになった。ただ、今度は別のアラームが点灯して、マークの形からしてタイヤの空気圧の問題のようにも見えるのだが、しばらくすると消えたりして、なんだかよくわからない。ボロいからいろいろあるなと思っていたが、これが重大なことだったのを翌日知ることになる。