ユタ・アリゾナ壁画紀行 7日目

最初の予定では、この日はモアブから東のコロラドに入り、アナサジの住居跡であるメサ・ヴェルデに行く予定だったのだが、その後で回る予定だったモニュメント・バレーが、ちょうど予定した日に自転車レースの開催で入場できないことを知り、急きょ先にモニュメント・バレーに行き、その後でメサ・ヴェルデに回ることにした。一度大きく西へ行き、その後東へ戻り、さらに大きく西に行くという全く無駄な行程になってしまったのだが、ツアーの予約など済ませている日があり、どうにもうまく調整できなかった。

モアブを出て、先ずすぐ近くの川沿いにある壁画サイト、コートハウス・ウォッシュ・ロックアート・サイトへ。この壁画は岩壁が四角く崩落してまるでフレームで囲んだようになっている平面に描かれたペインティングで、バリアー・キャニオン・スタイルの人物画だ。彩色壁画なのだが、妙なかすれかたをしている。

帰国後に知ったのだが、これは1980年にある先住民の家族が金ブラシをつかって消してしまおうとしたためだと言う。家族に悪いことが続き、霊的な攻撃をうけていると考えた家族がこの絵を消そうと試み、しばらくは「攻撃」は収まったが、その後また始まって状況は良くならなかったと日記に記しているという。この絵はなかなかの傑作という感じなので残念だ。



この壁画を見たあとは191号線を一気に南に降りる。途中西に入る道に入り、キャニオンランズ国立公園の南の端に入り、ニューズペーパー・ロックと呼ばれる、これもユタの壁画で最も有名なもののひとつを見にいく。大きな岩山の一部がごっそり崩落して、露になった滑らかな面に数百もの細かい絵が彫り込まれている。ナバホはこの岩をTse' Hone、「物語を語る岩」と呼んでいたという。岩肌がかなり黒く焼けているので、絵もクリアに見える。

これだけの崩落があったとみられるのに、その「落ちた部分の岩」が見当たらないのはおかしいな、何かに再利用されたんだろうか、などと考えたが、どうかしていた。絵が彫られた時代に起こった崩落ではなく、遥か昔のことにちがいないからだ。川沿いの場所なので、そもそもが現在よりも水量の多かった川に削り落とされたもので、落ちた岩も流れに運び去られただろう。

絵の説明板には古いものは紀元前2000年頃、新しいものは現代のものまであると書いてあるが、どの部分がどの時代に属するものかはわからない。ただ、白くはっきり出ている絵柄には馬に乗って矢をつがえている人物が複数描かれていることから、この絵は少なくとも白人と接触して馬に乗るようになってから描かれたものだということが推測される。


面白いのは指が6本ある足跡の絵が複数あることだ。この近くのプエブロ・インディアンの遺跡を発掘したところ、3%を越える遺骨が右足の指が6本あったという。異例の高い割合であることと、これらの遺骨が奢侈品とともに埋葬されていたことから、足の指が多いことが一種の高貴な血筋の証とされていた可能性もあるのではと考えられている。

今回はパノラマ撮影用の機材Nodal Ninjaを持って行っていたが、ここまで使う機会がなかった。せっかくなのでここで緻密な撮影をしようとセットしたが、街道沿いで訪れる者も多く、中央に陣取って撮り続けるのはなかなか難しい。戻って合成してみたところ、きちんと撮れていたが、パノラマにこだわらず、もう少しいろんな部分をそこに正対する形で撮るべきだったと反省している。

さらに191号線を南下し、ブラフの町を通過し、西に曲がってサンド・アイランドのペトログリフを見る。長い壁面にかなり多くのペトログリフがあるが、かなり時間が経っているようで色が黒ずんでいてなかなか絵柄がわかりにくい。フルートを吹く精霊ココペリの姿があるが、フルートを強調するために誰かが削り直したようにも見える。頭の上に半月形のものが重なっている人物像が複数ある。これは比較的近いエリアにある壁画にも見られるもので、そこも可能なら行こうかと思っていたが、砂地をかなり走る必要があるというので、この日はあきらめた。

 

さらに163号線を南西に進み、奇岩「メキシカン・ハット」の横を通る。この円盤状の独楽のような岩が乗っている奇岩は『奇岩の世界』でも紹介したが、本当に不安定な形で、これが崩れずにずっと残っているというのが不思議だ。

 

 

163号線をさらに進み、モニュメント・バレーに向かう。西部劇の舞台として、幾度となく使われてきたテーブル状の岩山が並ぶ場所だ。ここに向かう途中、映画『フォレスト・ガンプ』のロケに使われた場所で一時停止する。アメリカ中を走っていたガンプが、「疲れたから家に帰る」と立ち止まる場所だ。

 

モニュメント・バレーに着き、シーニックロードというラフな周遊道を走る。ちょうど岩にいい具合に夕日のあたる時間だったのだが、あいにく天気が悪く、雨も降ってきた。この日はエリア内にあるキャンプ場に泊まる。ナヴァホの家族が経営している簡易なキャンプ場で、一応シャワーもある。テーブル状の岩山も見えるいいロケーションなのだが、いかんせん強風で土ぼこりがすごい。薪をたくさん持ってきていたので、焚き火をして、晴れていたら星の写真でも撮ろうかと思っていたが、外にいるだけで辛いくらいの風になってきたので早めにテントに入って寝る。まったくキャンプ向きの日じゃなかった。おかみさんとご主人とも少し挨拶したが、この土地に代々住んできたと。二代前くらいまではホーガンと呼ばれるドーム型の土の家に住んでいたと。今はトレーラーハウスなどになっている。彼女のおばあさんは13人子どもがいたから大家族だった、と。