インド 地上絵・壁画撮影行 その4

この日はラトナギリの北側にあるサイトを巡る。

先ず、Ukshi村にあるサイトに。ここは規模の大きな地上絵が2サイトある。先ず、大きな象の刻画だ。Kasheli村のものと比べると小さいが、それでも象のリアルサイズよりもかなり大きな絵だ。象単体で、耳に線模様が入っている。何か耳に飾りでもつけていたことを示してるんだろうかと思ったが、ラグナート君がこれは昨日訪れたRundhe村の曼荼羅のような絵の中にあった、丸い形の中に十字が入っているのと同じ様式なのではと。でも、こちらの象の耳に入っているのは十字ではなく、T字をひっくり返した形だ。同じシンボルとはいえないと思った。目のあたりにも妙なカギ型の形がある。

ここは地主が作ったラテライトの堅牢な囲いがあり、一部、上から見られるように高くつくってあるため、長い自撮り棒にスマホをつけて全体像を収めることができた。

 

 

さらに少し離れた第二のサイトに。こちらはいろんな絵が組み合わさった複合的なものになっている。ここも見たところ作って間もないような堅牢な塀囲いが出来ていた。

少し気になるのだが、こういう囲いは雨で流れてくる土や草の種を遮断して、いつでもある程度見やすい状態に保てるし、塀の上が見学路になっているので全体がよく見渡せるのだが、囲みが絵に近すぎるような気もする。これを作ってしまうと新しく周囲で何か発見されたときにそれと囲いの中にあるものが隔絶される形になって、関連性がつかみにくくなるのではないか。ラテライトの岩盤なので、この塀の下から何か新しく出てくるということは無いのかもしれないが。

リサーチ・センターの人たちもどういう形で保護して、見学者のためにどういう設備をつけるのがいいか、検討中だと言っていたが、工事はどんどん進んでいる。

二番目のサイトの絵はよくわからないものが多い。大きな顔のように見えるものや(おそらく顔ではないと思うが)、方形の中に丸い形がたくさん入ったものなど。人間の姿もあるが、ここは他で多く見られるように、両足をきちんとそろえてつま先を開いたポーズではない。深く彫られたレリーフは無いが、様式はBarsuのものなどと近いものがある。長方形の中に丸がたくさん入っているものは、把っ手のような形もついているので、「石器時代のショッピングバッグ」などと呼ばれているようだ。

一対の足型があるが、指のついた、裸足の足型だ。他の場所で見たそれらしいものは皆、靴跡のようなものだったが。決してわかることはないだろうが、どういう意味をもっているのか興味はつきない。

 

 

上の絵はなんだろう。ぱっと見では鳥かなとも思ったけれど、なんかちょっと違う。頭に角みたいなのがついているようにも見える。

この場所は何だったんだろうか。宗教的な祭事を行うものだったのか、イニシエーションのような集団内の儀式と関係したものだろうか。なんにしても、単なる絵の集まりとは思えないものがある。

続いて、ムンバイからラトナギリに向かう途中で寄ったDewoodに再び行く。もうひとつ、道の先に見逃していたサイトがあるということだった。

初日に見たサイの絵のサイトの横を通り過ぎてすぐ、何か工事している場所に着いた。地上絵サイトの周囲にちょうど壁を作っているところだった。そしてなんと、囲い塀をきちんと作るために、絵の上に石灰で方眼が敷かれていたのだ。今回、なんて不運なんだろうか。

 

 

イノシシ、つま先を開いて立つ人物像、そして、出産の場面らしき絵もある。おそらく地元で安産祈願に使われていたのだろう、長年手でこすられてきたためか、股の間が削れていた。

続いて、初日に見つけられなかったNiwali村のサイトに。サイト名はGawadewadi, Niwali となっている。ここは前日にDevihasol村で見たような方形の大きなレリーフで、やはり同じような抽象的なパターンで埋め尽くされている。方形に十字型の仕切りがあって四つのパートに分かれているのも同じだが、中の模様は同じでないように見える。

ここはかなり草に覆われていて、草を掃き出すのにかなり時間がかかった。それでも完全に除去はできなかったので、模様も細かくは確認できなかった。

方形の部分に向かい合うように、つま先を開いた足のペアが彫られている。円形のモチーフも。

 

 

それにしても、見れば見るほど、この一連の地上絵は世界有数のわけのわからない先史時代の遺跡と言えるんじゃないだろうかと思う。

サイトのすぐ近くにラテライトの採掘場があった。ラテライトの層は深いところで18メートルあるという。採掘時にブロック状に割り出している。ラテライトは地中にある部分はある程度の柔らかさがあるようで、これが日に当たって乾燥するととても硬くなるのだと。方形に切り出すのもそれほど難しくないのかもしれない。

そこではたと思ったのだが、細かく深いレリーフがあるところは、もしかして表面の硬い部分を剝いで、ある程度の柔らかさがある層に彫りこんだのかもしれない。作業中に日にあたってどんどん硬くなっていくだろうけれど。

 

 

昼ご飯。ともかくカレー味がしんどくなってきたので、魚のフライと白いご飯にしようかと言うと、「それは無理だ」と。「なんで?」

「あんたは知らないかもしれないけど、魚のフライってのは乾いてるんだよ。乾いたものだけでご飯は食べられないだろ」とジテンドラが。ラグナートも「そう、ドライ、ドライなんだ」と、いかに魚のフライが乾いているかを強調する。

「いやいや、日本では魚のフライとかで普通にご飯を食べるんだ。全然問題無いよ」と言うも、「これはあんたが思っているようなものじゃない。ともかく悪いことは言わないから、フライだけとかいうのはやめておけ」の一点張り。

仕方ないので、じゃいいよ、フライじゃなくても...と譲歩すると、普通に魚のカレーが出てきた。こちらの人は白いご飯はカレーなどの汁気のあるものと混ぜて食べるのが普通なので、おかずとご飯という食べ方が通じないのかもしれない。つらい。

インドに来て、腹をこわさないように、コーラを飲むようにしていた。腹の調子が悪くなってきたら、コーラの炭酸がいいと言われる。サハラでも下痢っぽくなった人のためにコーラを積んでいた。サムズアップというインドのコーラがある。

 

 

少し移動して、Niwali村の中の別のサイトに。道路すぐ横に四角い、さきほど訪れたものと似たようなものがある。道路工事で発見されて、工事責任者が自治体に連絡したら、そんな様式の遺跡が出てくるなんて考えられない。たぶん自然に出来たものだろうと言ったそうだ。そこで工事を進めて壊してしまわなかったのは、工事責任者の功績といっていいのかもしれない。

 

 

方形の施設だということと中に入っている図案の感じは前日訪れたDevihasol村のものや午前中にNiwali村で見たものと似ているが、ここは十字型の帯で四つの区画に分けられていない。もう少しランダムだ。要素は全て矩形で構成されてはいるが。

時間に余裕があるので、これまで外部の人を連れて行ったことのないサイトに行こうとラグナートくんが。それはありがたい。

まず、Masebavという場所に。ほぼ草で覆われている。「何があるかわかる?」と。

彼が箒で少しずつ枯れ草を掃いていく。ほとんど土の無い場所なので、草はラテライトの穴に根を降ろしているが、根は浅く、すぐに抜けてしまう。

現れたのは、大きな象の刻画とつま先をひらいた人物像だ。象の絵はかなりデッサンがおかしく、他のサイトで見たものと比較すると雑な感じではあったが、やはり実物大よりもずっと大きな絵だ。子象らしき絵もある。

 

 

もう一ヶ所、北西にかなり移動してBewareというサイトに。ただ、地図を見るとNewareと書いてあるので、聞き間違いかもしれない。ラグナートくんが「次はクジラの絵を見せるよ」というので、大いに期待したが、これがクジラ? どうなんだろう。 「僕がかってにそうだったらいいなと思ってるだけだから」と。ちょっと素朴すぎてなんともいえない絵だ。ただ、ここまで大きく描いているのだから、大きな魚もしくは哺乳類であることは確かかもしれない。

 

 

少し時間が余ったので、海辺に出てもらった。

ソマリアまで泳いでいけるよ」と。ラグナートくんが。そうか、海の向こうはアフリカか。

タカラガイは落ちてないかなと、しばらく海岸を歩きながら探したが見つからなかった。このへんにはタカラガイは無いの?と聞いたら、あー、カウリー(タカラガイ)ね、とラグナート君が。南インドの装飾などにタカラガイが使われているものは見たことがある。このへんでもないことはないようだ。

 

 

ラトナギリ市内に戻って、リサーチセンターに。二日間でラトナギリの南北のサイトは一通り見ることができた。他にもあることはあるが、長く歩く必要があったりして、今回は難しいと。明後日、南のSindhudurg 空港からムンバイへ行く飛行機に乗る予定だ。ラトナギリからだと遠すぎるので、明日の夜はマルヴァンという港町に宿を変更してもらった。

「今、あなたを明日どうするか相談してたところだよ」と。私が、例の白い粉が入れられたBarsuに戻って、一番大きな絵の粉を掃き出して撮り直したいと言うと、あれをきれいにするのは箒では無理だ、あきらめろと。

じゃあ、Kasheliの巨大な象の絵の所にもう一度行って、絵を3Dスキャンしたいと言うと、それじゃあ、その後でKodopiに行くようにしようと。

Kudopiというのは、ラトナギリからはかなり離れた場所にあるが、空港のエリアからは比較的近いので、最終日にここに行ってから空港に行けばちょうどいいかなと思っていたが、それはちょっとリスキーだと。Kudopiは結構歩くのだと。

彼らの勧めどおり、明日はKasheliとKudopiに行き、マルヴァンの宿に行くことにした。

彼らには本当に世話になった。彼らに案内してもらえなかったら、たぶん半分くらいしか見られなかったかもしれないし、センターの展示もとても参考になった。御礼にTシャツのデザインをただでやらしてもらいますよ、と言う。

では、お茶でも飲みますかということになって向かいの喫茶店に。お茶はミルクティーがいいかブラックティーがいいか、と聞かれた。ブラックがあるのか! 甘ーいミルクティーも悪くないのだが、ブラックを注文。が、やはり砂糖はどっさり入っていた。

 

 

宿に戻ると、近くですさまじい音で音楽が鳴っている。どうもこの日は昔の王様の記念日か何からしく、何かイベントが行われているようだ。ちょっと疲れたので見に行く気力はなかった。音楽だけでなく、時々、すごい音の花火というか、爆竹のような炸裂音がする。