キンクス

ここ数日、Kinksのアルバムを繰り返し聞いている。77年の「Sleep Walker」と78年の「Misfits」だ。60年代末から70年代初期に「村の緑を保護する会(!)」とか「アーサー、大英帝国の衰退もしくは滅亡」とか「この世はすべてショービジネス」などの、イギリス人らしい、世間を斜に見たというか、ひねりの利いたコンセプチュアル・アルバムを連発したキンクスも、70年代後半には新譜もあまり話題にならなかったように記憶している。私は高校生だったが、この頃が唯一ラジオで音楽番組を聞き、音楽雑誌を買って読んだ時期だった。ラジオは渋谷陽一が人気パーソナリティで、アルバム「ミスフィッツ」の表題曲が渋谷の番組でかかったのをよく覚えている。かけたのは確か渋谷ではなく、今泉という、彼と一緒に番組を作っていた人だった。この人は結構、通好みというか、ひとクセある音の好きな人という印象があった。気に入ったので、録音テープを繰り返し聞いたし、後にLPも買った。
パンク全盛になる前はイギリスのバンドで大きく話題になるものが少なく、渋谷をはじめ、「ブリティッシュ・ロックはもうダメなのか」というような言い方をする評論家が少なくなかったように記憶している。確かにレッド・ツェッペリンやらディープ・パープルやらEL&Pやらピンク・プロイドなど、70年代初頭に大掛かりな活動をしたバンドの多くは盛りを過ぎていて、軒並み活動休止していた。10ccとかロキシー・ミュージックとか、アイデア豊富な面白いバンドは結構あったのだが、どれも大向こう受けするようなものではなかったので、ロックバンドはツェッペリンみたいにメインストリームを派手に行ってくれなきゃいやだ、という渋谷のような人には物足りなかったに違いない。
キンクスのこれらのアルバムは、大作主義から今一度かつてのビートバンドの軽快さに立ち返って再出発しようとしていたもので、イギリスの音楽シーンから離れ、アリスタ・レーベルから少しアメリカナイズされた音で出たのだが、よく練られた、アイデア豊富な佳曲揃いの好盤だ。リーダーのレイ・デイヴィースという人は本当に才人だと思う。アップテンポのタイトな曲が多い「スリープウォーカー」に比べると「ミスフィッツ」は少し力の抜けたダウナー系の曲が多いが、詞がとてもいい。以前輸入盤で聞いていたときは歌詞がついていなかった。「ミスフィッツ」というのは、周囲に馴染めない、とけ込めない奴、はみ出し者、というような意味らしい。「上手くいかないと独りでくよくよしなさんな。あんたは自分は特別だと思ってるかもしれないけど、そうでもないさ。あんたは自分を怖がって隠れてるだけだよ。よく見てみろよ、あんたと同じようなMisfitsはどこにでもいるよ。夏が過ぎて冬が近づいてると感じてるかもしれない、でも、いい時はまたきっと来るさ。」というのは、当時の音楽シーンにおいて、気がつけば「場違い」になりつつあったキンクス、曲を書いているレイ・デイヴィース自身に向けたものだと言われているようだけれど、この歳になってあらためて歌詞を知りつつ聞くと、沁みる。レイの声がさらっとしていて、どこかコミカルなのがいい。
それにしても、訳詞でMisfitsを「君はミス・キャスト」と訳しているのはどうなんだろう。ちょっと違う気がするが。

ミスフィッツ+4スリープウォーカー+5