きむじょんいる/ブライアン・プロズロー

7歳の娘が近所の友達と、絵やちょっとした手紙を互いのポストに入れる、ということをしている。学校でずっと一緒なのだが、学校から帰ってから「明日も一緒に行こうね」とか、かわいい絵入りのメッセージをポストに入れるのだが、男の子では考えられないことで、女の子っぽいことしてるな、と思っていた。ところが先日、娘が友達向けに書いた絵に、黒いサングラスをかけた、頭のチリチリの人の姿が。横にはでかいロケットのようなものもある。これが金正日将軍様とミサイルだったのだ。有名な芸能人とかと勘違いしてるんじゃあるまいなと思い、金正日ってのは、こういうやつなんだぜ、ちっとも楽しいやつじゃないんだぜ、と説明すると、「知ってるよ、爆弾が飛んで来るかもしれないんでしょ」とか言っている。「最近話題になっていること」として、手紙に盛り込んだんだろうか。たいへんな影響力だな....。


イギリスのシンガーソングライター、ブライアン・プロズローのベスト盤を購入した。70年代後半に3枚のアルバムを出した人だ。シンガーソングライターといっても、本業は舞台俳優で、アルバムは出したけれどライブも二、三度しかしなかったと、ライナーに書いてあった。この人の曲を最初に聞いたのは、渋谷陽一のラジオ番組だった。中3か高1だったと思う。かけたのは渋谷ではなく、以前のブログにも書いたが、今泉氏だった。彼はプロセローと紹介していた。「ピンボール」というファースト・アルバムの表題曲で、「まるでピンボールの玉みたいに」虚ろに街を彷徨う、現実感を喪失しつつある状態の「私」を、離れたところからもう一人の私が見ているというような、不思議な印象の曲だった。「ペールエール(ビール)を切らしちゃって、まるで牢屋に入ってるような気分だよ」から始まり、「気がふれた人は、自分が狂ってるってことはわからないらしいね」「母さん、頭の中をすっきりさせてたら、いい夢が見られるのかな。それともまたいつも通り混乱した頭のまま目覚めるのかな」と、とりとめなく歌い、曲の最後に再び最初の歌詞に戻っていく、虚ろで不思議な既視感のある曲に引き込まれ、録音したテープを繰り返し聞いた。その後新宿の中古屋でLPを見つけて買った。白地に簡単な線画でポートレートが描かれたジャケットで、確かクリサリスから出ていた。かなりの二枚目俳優なのだ。「ピンボール」は詩を読むととても内省的で屈折した感じだが、曲調はさらっと軽快なポップスで、声も爽やかなのがこの人の特徴だ。アルバムにはいろんなタイプの曲が入っているが、共通しているのは、どこか、舞台の上で演じられているドラマを見ているような不思議な距離感だ。この人が舞台俳優だと知っているから言うわけではない。また、この人の歌声はなんとも言えず「映像的」だ。ベスト盤には比較的最近の録音の曲も入っている。アメリカに舞台の公演で行った際に訪れた、歴史のある古いホテルについて淡々と歌ったもので、これがまた、まるで目の前に映像が広がって行くような臨場感がある曲だった。曲を書く才能も、表現力も、非凡な人だと改めて実感したが、本人は俳優業が最優先で、音楽は余録という意識だったらしい。70年代後半の、パンクムーヴメント直前くらいに出た、ジャンル分けしにくいものなので、一部では「ニッチ・ポップ」とか言われているらしい。

Pinball & Other Stories: The Best of