クラウト・ロック

10代に熱心に聴いた70年代前半のドイツのロック関連のDVDを二枚買った。最近あまり聴くこともないが、最も大きな音楽体験のひとつだったわりには、当時全くと言っていいほど情報がなかったジャンルだった。映像などは言うまでもなくほとんど見られず、「フィルム上映会」に出かけて全盛期を過ぎたいくつかのギグの様子をちらりと見たくらいだったので、どうせ一度見たら終わりなのだが、つい買ってしまった。
ひとつは「Best of Krautrock vol.1」という発売されたばかりのオムニバスで、日本でも輸入販売している業者がある(が、palのままなので、通常のDVDプレイヤーでは見られない)。Kraut Rock当時の個性的なドイツのバンドの総称で、ドイツの料理のつけあわせに出てくるキャベツのピクルス=クラウトのことだ。これは珍しい映像てんこ盛りだった。Amon Duul II(レナータ・クナウプはいない), Can(ダモ鈴木入り), Lucifer's Friend, オクス・ゲンリッヒがいた最盛期のGuru Guru、デビュー間もない、電子音楽時代のPopolVuh, そして、フローリアン・シュナイダーとクラウス・ディンガー、ミヒャエル・ローターの三人編成のクラフトワークという超珍しい編成の映像が。ラルフ・ヒュッターがいない時期というのがあったのか。知らなかった。ディンガー、ローターはNEU!を結成するので、音もNEU!的だった。現在も活動してるEmbryoも入っている(ステージでライブ・ペインティングのパフォーマンス付き)。さらに面白いのは、75年に作られたとみられるドキュメンタリー映像、「Krautorock」が入っていて、Amon Duul(IIではなく!)のステージがちらっと写ったりする。ちらっとだけ......ああもったいない。Holderingのツアー風景、「ルビコン」くらいの音のTangelin Dream、ドイツのエレクトリック・トラッドバンドOugenwideのステージも少し写る。これもかなり珍しい映像に違いない。ドイツ語で英字幕もないので、話はまったくわからないが。なかなか面白かった、が、メインの映像がほとんどドイツのテレビ番組の映像で、コテコテに画像処理しているのが何とも鬱陶しい。背景にサイケな処理をするのは許すが、人物をシルエットやネガにするのは勘弁してほしい。何のために見てるのかわからん。収録されているエンブリヨというバンドはユニークなバンドで、世界各地をツアーというか旅していたようだ。各地といっても、ロック・ビジネスなど存在しない所謂第三世界で、演奏にもエスニックな要素をふんだんに盛り込んでいたようだ。「放浪バンド」という、70年代前半にバンドが中近東やアフリカ、アジアを遍歴する様子を映画におさめたものがあるらしく、その一部が入っていた。アフガニスタンで演奏している。砂漠をドイツ人がギターやドラムを持ってウロウロしているのは実に奇妙な映像で、全編見たくなった。
もうひとつはFaustのDVD。これは基本的に現在のFaustの映像作品集だ。現在のFaustにはあまり興味がないのだが、最初に少し、1.2枚目発売当時のプロモーション映像が入っているというので、買った。あざとい。買う人のほとんどはこれが目当てに違いない。ビーチで新聞を読んでいた白クマが、ファウストのレコードが出たことを知り、ドイツはヴュンメまで会いに行くという話。何それ? ファウストはドイツ・ポリドールの金で、廃校で共同生活していたが、白クマが一緒にご飯を食べたり、スタジオに入ったりするだけで、演奏する場面はほとんど出てこない。ファウストとアンソニー・ムーアという、何ら実績もなくコマーシャルな要素も全く無いバンドを、口八丁でポリドールに売り込み、機材代からエンジニア、生活の場までの全ての面倒を見させたのはネッテルベックというプロデューサーだったようだが、この男は実験的な映画を作っていたようなので、この変なプロモ・フィルムもこの男が作ったのかもしれない。脱力するだけの映像だったが、このバンドらしいといえばらしい。

ベスト・オブ・クラウトロック vol.1 [DVD] Impressions [DVD] [Import]