ジャニス・ジョップリンの命日と映画「ジャニス」

今日はジャニス・ジョップリンの命日らしい。つい最近、彼女の伝記的映画「ジャニス」のDVD版がようやく出たので、早速観た。15年ほど前の劇場公開時に観て以来、もういちど観たいと思っていたのだが、ヴィデオも長らく絶版だったのだ。が、見始めて、なんともがっくり。歌詞の字幕が入っていないじゃないか...! ライブ映像集プラスインタビューとしてならともかく、これは映画であって、彼女の話と歌と一体になっていないと、何とももの足りない。とくに、歌の前に語りがあり、「それはね、こういうことよ」みたいな形で歌い出しているのに、語りの部分には細かく字幕が出て、歌い出したとたんに何も出ないんじゃあ、肝心の「そういうこと」がなんだかわからないじゃないか。その直前の言葉を訳す意味さえも無くなってしまう。こっちは完全に聞き取れるほど英語力もないし、詞を全部覚えているほどの熱心なファンじゃないのだ。
確かに、テレビで放映されるライブ映像に冴えない訳詞が出てきて興ざめなことなどもあるにはあるけれど、それは訳詞の質の問題だ。この映画は死後に作られたものなので、映像の寄せ集めではあるけれど、映画の進行とともに彼女の人柄がじんわりと見えてくる作りになっている。彼女がどんな歌を歌っているか、とくに彼女の自作の詞はとても重要なのだ。
劇場で観たときの「コズミック・ブルーズ」の訳詞はなかなか胸に迫るものがあった。記憶では「25年生きてきたけど、何ひとつうまくいきやしない。子どものときとおんなじで、今さらどうにもならないのよ」「でも、こんなことあれこれ考えてても仕方ないね。私のなかにある、この火が大事なんだ。大切にして、命果てるときまで燃やし続けるんだわ」っていうニュアンスだった。全くおおまかな記憶だが。
仕方ないので、CDについている訳詞を見てみたら、おや、これがなんだか変なのだ。何がいいたいのかよく分からない感じになっていた。「25年間も一緒だったけど、たった一晩だわ oh yeah。私も25年分歳をとった だから結果を出せないのは分かっているの。私はちっとも良くならないわ。これ以上助けられない。ほんの小娘の時なら出来るはず」って、これは何? 全く意味がわからない。
隣にある英文を見てみると、
Twenty five years and honey it's just one night.
Well I'm 25 years older now
So I know we can't figure out
And I'm no better, babe
And I can't help it no more
Then I did when I was just a girl.
とある。
英語もなんだか良くわからないけど、少なくとも、can't help it no moreは「これ以上助けられない」ではないだろ。
こうなったら海外のファンサイトで歌詞を見てみようと思ったら、さらなる困難が。
あるサイトには、こうある。
Twenty-five years, honey just in one night, oh yeah
Well, I'm twenty-five years older now
So I know we can't be right
And I'm no better, baby
And I can't help you no more
Than I did when just a girl.
日本盤では「figure out」となっていたのが、「can't be right」になっていて、それなら「ちっとも良くならないわ」という日本盤の訳もわかる。日本盤でThenとなっていたのは、Thanの単なる誤植かな。それにしても、この'we'は何なのか。これは「あんた、どうなってんの?」っていう感じで、自分自身に向かって語っているように思っていたのだが。しかも何と、その後、私が映画で見たような気がしている「自分の中にある火を」という言葉が無いじゃないか! 
ただ、
I better hold it now
I better need it now
I better use it till the day I die
とあって、itが何なのかちょっとよく分からないのだ。

さらにネットで検索すると、
In concertというアルバムの歌詞としてつぎのように書いてあるものが複数あった。
Well, I'm twenty-five years older now
So I know it can't be right
And I'm no better baby and I can't help you no more
Than I did when I was just a girl. Yeah!

But it don't make no difference baby, no, no,
'Cause I know that I could always try.
There's a fire inside of everyone of us, huh-uh,
I'm gonna need it now,
I'm gonna hold it yeah,
I'm gonna use it till the day I die.

おお、ここには「火」があったじゃないか。レコードとライブで少し歌詞が違ったようなのだ。それに、Weじゃなくて、it can't be rightとなっていて、少し納得する。
それにしても、日本盤についている英語の歌詞のWe can't figure outというのは、他の英語のサイトでは見られなかった。これもweは自分自身だとすれば同じようなニュアンスになるのかもしれないけれど。それだけ見るといかにもブルースっぽい男と女の話のようで、どこかどうも日本盤の訳詞はそう見ている感じもある。「これ以上助けられない」っていうのは、ブルースにありがちなダメ野郎のイメージで訳したのかな。だとしたら、「ほんの小娘の時なら出来るはず」はないだろう。逆に「自分がダメな女だってことはわかってるけど、もう小娘のときと同じようにはいかないのよ」的なイメージなんだろうか。いったいどういう歌だと思って訳してるのかよくわからない。

そもそもこの一節の前には
Dawn Is coming on
または、Dawn has come at last
「ああもう夜が明けちゃう」とあって、25年間を一晩かけてあれこれ思い起こしてみたけど、という意味なんだと思うんだが、日本盤の訳詞は
「25年間も一緒だったけど、たった一晩だわ oh yeah」
ううむ...何が「たった一晩」なのか。

どうも気になるので、もう一度DVDの詞だけを聞き直してみよう。
ついでにAmazonで昔の劇場用映画のビデオのページを見てみたら、DVDが出たせいか、1000円で中古が出ていた。つい、買ってしまった。

このコズミック・ブルーズの歌詞は、映画の字幕ではじめて目にするものだった。ジャニスの曲で好きなものは多かったけれど、このレコードは持っていなかったから。30をとうに過ぎていたが、池袋の小さな映画館で思わず胸がいっぱいになりそうになった。まだ始まって5曲目だというのに....! ....個人的な事情は別として、少なくともこの歌の詞と、ラストの「Me and my Bobby Mcgee」の「自由っていうのは、何も失うものがないってこと」という言葉は、この映画の日本盤には絶対に必要だと思う。日本版の発行元のユニバーサルの人はもうちょっと大切に商品を作ってほしい。

ビデオが届いたら、早速訳詞を確認してみよう。もしかすると記憶と全然違う訳詞かもしれないけれど。

ジャニス [DVD]