チュニジア旅行-5

トズールのメディナは土産物屋も少なく、静かで趣がある。この地方の女性は伝統的には全身真っ黒い服を着ているが、青いラインが入っているものと、そうでないものがある。未婚、既婚のシンボル(どちらがどちらだったか)なのだという。「じゃあ、あの人は未婚ってとなの?」と、かなり歳のいった女性について運転手君に尋ねると、「あの人は...間違えようがないからいいんだよ」と。確かに。メディナの中で、家の中を見学用に解放している私設のミュージアムがあった。メディナ全体もそうだが、入り口はとても狭く、中は予想以上に広い。中央の中庭的スペースが家族の共有の場で、食事もそこで取る。中庭をぐるりと囲むようにして、部屋が配置されているが、音楽演奏のための間というのがあったのが印象的だった。香壺があり、数種の香が置いてあった。ホコリだらけの骨董屋には古い陶器から家の扉、石、ラクダの鞍まで、なんでも売っている。こういう店はチュニスメディナにはない。

    
     
  

トズールを出て、アトラス山麓のタメルザに向かう。途中、映画「イングリッシュ・ペイシェント」のロケ地として知られるチェビカ、ミデスと、ダイナミックな渓谷を見学。絶景だった。この地域では鉱物と化石が多く採れるので、土産物屋にもずらりと並んでいるし、子どもがジオードやサハラのバラを持って、「1ディナール」と言って追いかけてくる。ジオードは「クリスタル」と言って売っているが、天青石=セレスタイトだ。これに油の混じった青いインクで色をつけ、「アメジスト」と言って売っているから驚く。油のために、妙にレインボーの反射光が出るようになっていて、日頃鉱物標本を見ている人には着色が一目瞭然なのだが、馴染みの無い人は騙されるかもしれない。「これはdyed=染めてあるじゃん」というと、「ノー、ムシュー。ナチュラル」と。丸い、同心円状の縞模様が入っているフリントの団塊も売っているが、これは「アガート=メノウ」だという。「これもメノウじゃないよ」と言って、何も買わずに立ち去ろうとすると、店の男が酷く不機嫌になり、「おまえ、さっき写真を撮っただろ、払えよ」と、咎めるようにいう。仕方なく、それなりに払おうとするが、「だめだ。3枚くらい取ったからその分払え」と、法外なことを言い出した。「だいたいあんたさっき、写真撮っていいか聞いたとき、いいって言ったじゃないか」「だめだ、買わない人は写真は有料だ」「だからって、どこに写真3枚にそんな金を取るやつがいるんだよ。あんたの店は石の値段より写真を撮られる値段の方が高いのか?」と、しばらくもめた後、結局、「ふん、じゃあまけてやる」ということになったが、ひどく感じの悪い男だった。車に戻るとこのやりとりを見ていた運転手君が「どうかしたの?」というので、つい、腹立ち紛れに「とんでもなく欲張りだ」と、言ってしまった。しまった、と思うも遅く、運転手君の気分までひどく損ねてしまった。ぶらぶら旅行に来た外国人に同郷の人間のことを悪し様に言われるのが不快なのは当たり前なのだ。
 
 
 
 

旅行で買った・拾った石は以下の通り。上から団塊状のフリント。透明石膏。これは薄いガラス状の結晶が層をなしているもので、なかなか面白い。天青石のジオード。砂漠のバラ。中が天青石のジオードになっている貝の化石。干上がった川に落ちていた大きな貝の化石。それと、テレビ石のような繊維状の結晶が平行に並んだ石も拾った。