コロンビア滞在6

1970年代前半に放映されたNHKの「未来への遺産」では、草原に立つ二つの石像を紹介していた。ひとつは四角い目、口と段々になっている前髪と、とても抽象的な様式で、ずっとそれをサン・アグスティンの石像の代表的なイメージとしてもっていた。ところが、丸二日あちこちの遺跡を見て歩いたのだが、それが見当たらない。
自宅からNHKの本の写真を転送してもらい、アニワルに見せると、それはそれほど遠くないが、めったに人が行かない場所にあるのだという。今日は午前中考古学公園に再び行って写真を撮り直し、午後はぼんやり過ごすつもりだったが、その二つの石像があるところと、もう一つマイナーなサイトに連れていってもらうことにした。しかも6時出発でアニワルのバイクのタンデムということになった。
やっぱりどう考えてもタンデムは3時間くらいが限界だ。下り坂になるとエンジンを切って「エコノミー、エコノミー」と言いつつのろのろ惰性で下っていくので、ガソリンはいくらくらいなのかと訪ねるとなんとリッター150円もするという。物価を考えると大変な値段だ。彼のバイクはスズキだが、彼によると、スズキ、ホンダ、カワサキヤマハという順に高級になっていくらしい。ヤマハのバイクはなかなか買えないのだそうだ。
探していた石像は40年前と違って畑と民家の間に、屋根付きでおいてあった。あらためて見ると、ちょっと中華料理屋チェーンのマークみたいなのが気になるが。

再び考古学公園に。一昨日訪れたときは夕暮れで石像が全て影になっていたので、取り直すことにした。なかなか気持ちの良い公園だ。カトレアが木の高い所についている。日本では鉢植えの蘭しか見たことがないので、ちょっと不思議な感じだ。そういえば、「未来への遺産」でも延々と蘭を映しつつナレーションが流れるシーンがあった。何故遺跡を映さずに蘭を?と思ったが、やはり当時のスタッフもよほど珍しかったんだろう。

綺麗な花が多い。こちらのバナナはとても小さく、花も鮮やかな色をしている。

大きなバナナはプラタノスと呼ばれ、練って薄くして焼いて食べる。
コーヒーの花がこんなに可憐だとは知らなかった。


公園の入り口に戻ってくると一昨日英語でガイドをしてもらったマリアがいた。彼女に携帯でコロンビアの瑪瑙の写真を見せ、この辺で採れるらしいよ、というと、「私、こういう綺麗な石がいっぱいある所を知ってる」という。なんでも昨日ジープで降りた河原を少し歩くとあるのだと。昨日行った感じではあまりそんな感じでは無かったのだが、「私の秘密の場所」云々と。連れてってあげようか?というので、今から行って帰って来れるのか念を押したが、バスが定期的に出てるから大丈夫と。
ちょっと思い込みの激しい人なのでどうかなとは思ったが、他に予定もなかったので、行くことにした。
これが大変な苦労の始まりだった。まず、バスが来ない。いくら待っても来ないので、「歩いていくうちに後ろからくるわよ、行きましょ」という。山道を登っていくのはしんどいのだが、ぼーっと待っているのもなんなので歩くことにした。歩いても歩いてもバスは後ろから来ない。最後まで歩き通したら二時間以上かかってしまう。
通りかかった乗用車を止めると、若い男が二人。「俺たち葉っぱ吸ってるけど、それでもよければ乗っていいよ」と。吸いながら車を運転してるというのがちょっと怖い...。でも他に車も来ないので乗ることにした。
しばらくすると道路が工事中で通行止めになっている。そこで小一時間待ち、ようやく河原に出た。
しばらく歩いて、さあ、ここよということになったが、うーむ、無い。「ほら、これなんか綺麗な石でしょう?」とマリアは言うのだが、岩石ばかりだった。でも、なかなか気持ちのいい河原だ。

石をあれこれ見つつ、マリアに「夫はどうしてるの?」と何気なく聞くと、その後信じられないほど過酷な彼女の半生を聞くことになった。それでも彼女はとても明るい。
暗くなってきたので、帰ることにした。帰りはバスが絶対くるから、ちょっと歩いていきましょうと、再び山道を歩く。バスは来ない。「ホントに来るの?」「大丈夫、だって一日何便かあるはずだから」と。
日も暮れてきて、遠くに焼き畑の炎が見える。再びかなり歩いた頃、トラックが通りかかった。運良く荷台に乗せてもらって、一安心。さっきまで平気な顔をしていた彼女も「どうなるかと思った」というじゃないか。
本当は日暮れまでにカルロスの家に行って、彼が掘り出したという焼き物の像やら金細工やらを見ることになっていた。本物かどうかもわからないし、買う気も無かったが、暇だから見てもいいよと約束していたのだ。町に着いて、アニワルのバイクに乗せてもらいカルロスの家に。
「どうしてたんだよ、待ってたんだぜ」とカルロス。「なんでも女と一緒だったらしいじゃないか。良かったか?」そういうんじゃないから。地味に石拾いだから。
「これが俺がみつけた焼き物、そしてこれが、ジャーン、金細工なんだよ。どうだ、ん?」と並べる。売りたくてうずうずしてるが、焼き物は半分怪しい。金はと言えば、どうみても真鍮なのだった。「純金じゃないんだ。金メッキなんだ。でも遺跡から出てきた本物だよ」と。紀元前に金メッキ?
「去年ロシア人がたくさん買っていったからこれしか残っていない」という。「いいものを見せてもらったよ。ありがとう。買えないけど」「いいんだ、俺はお前に見せたかったのさ」。本当に盗掘で金を見つける人もいる。カルロスの持っていたのが本当に金だったら、彼ももうちょっと楽に暮らせたに違いない。
彼を待たせたので、町でアニワルと二人にビールをおごる。ビールとミネラル・ウォーターはほとんど同じくらいの値段だ。ジュースの方が高い。

カルロスとアニワル。悪い男二人。

そこにアニワルの嫁のコロンビアも登場。コーヒーに砂糖をガンガン入れて飲んでいる。写真を撮るからというと、「ちょっと待ちなさい」と、腹を引っ込め、髪をとかす。砂糖を入れすぎなんだよ。アニワルのツーリストオフィスを仕切っているのはコロンビアだ。「ミスター・ジャマダ、またコロンビアに来なさい」。ジャマダじゃないから。

これでサン・アグスティンは終わり。明日は朝早くカルロスとさらに小さな村・ティエラデントロに行く。たぶんネットも使えないだろう。
ボゴタに戻るまで後二日しかないので、一人でバスを何度も乗り継いで移動するのはちょっと大変だ。バスに乗り遅れたらたどり着けない。カルロスと交渉してガイドしてもらうことにした。彼は悪いけど、悪人ではない、と思う。この村の普通の人たちはおおまかに言ってのんびりしている。メキシコの観光地のようにしつこく物を売ろうと付きまとったり、ふっかけてきたりしない。