タッシリ・ナジェールの旅 11日目

 さすがに前日は長く歩いて疲れた。ジャバレンが連泊なのは助かる。

 南アフリカで膝の骨にヒビが入ったので、そこが痛くなるのが心配だったが、サポーターをしていることもあってか、幸い痛みはなかった。それでも念のため湿布を毎晩貼って寝た。英さんとジャン・ピエールにも湿布を渡した。疲れてくるとよろけて転ぶこともある。下手をすると捻挫したり最悪骨を折ったりすることもあると思うが、主催者は湿布もテープも持ってきていないというのはちょっとどうかと思った。前回も途中でドイツ人の女性が足を捻挫して、ほとんど歩けなくなった。このときは自動車で移動のツアーだったからよかったが、今回のような環境だったら、下に降りることすらできないだろう。捻挫はすぐに湿布を貼ることが重要だが、誰も持ってきてなかった。そういう経験があるのだから、湿布やテープくらいは持ってきてほしい。どういう場所をどのくらい歩くかは主催者しか知らないのだから。もっとも、南アの薬局で「湿布」といっても全く通じなかったので、日本ほど湿布が好きな国はないのかもしれないが。

 ジャバレンからWadi Amazarという枯れ川を越えて、Aouenrhetというサイトへ。ここには不思議な絵が残っている。カタツムリのような形に入った人と上を漂う、足の無い人の姿だ。足の無い人はそれにすがるような人の絵もあり、カタツムリのような形から人が出ようとしているところを手を貸そうとしているように見える人もいるため、これは「誕生と死」と呼ばれている。

Wadi Amazar

Aouenrhet

Aouenrhet

Aouenrhet

Aouenrhet

Aouenrhet

 
 Aouenrhetでもうひとつ有名なのは、角をつけた大きな女性像だ。「白い貴婦人」と呼ばれているのだが、黒い肌に描かれているので、どうして「白い」と呼ばれているのかわからない。かなり薄く、下半身がよく見えないが、走っている姿のようだ。腕などに房のついた飾りをつけている。これはかなりコントラストを上げた写真で、実際はもっと淡い。ロート隊の模写を見ると、どういう装束なのかなど、よくわかる。

Aouenrhet

Aouenrhet

Aouenrhet

Aouenrhet

仮面をつけた人物の姿も。ふんどしをつけている。仮面だけ描かれている場所もあるが、このデザインを見ると、ネグロイド系なのかなという気もする。

Aouenrhet

Aouenrhet


 午後はジャバレンに戻る。モダンなかんじのダイナミックなポーズの人物画が。こういう何もモデルが無いところから、全く新しい様式を生む人はやはり天才なんだと思う。そういうごく少数の天才が見せた抽象化の仕方や意匠を見て同じ様式を模倣する絵が広がっていくのだろう。イヘーレン様式やこうしたダイナミックな絵は同じ様式でも巧拙がある。

Jabbaren

Jabbaren

ジャバレンにもいろんな時代のいろんな様式の絵がある。この、頭に独特なかぶり物をして、マントのようなものを着ている人たちの絵はTadrartに多くみられたものだ。

Jabbaren

ある場所のとても狭い低いシェルターの天井に面白い絵があった。動物の体を蛇が巻いているようなものだ。あまり他でみかけない感じの様式で、蛇もかわいい顔をしている。ねっ転がってようやく見えるというような絵で、他の絵を見ていて偶然気付いた。

Jabbaren

Jabbaren

Jabbaren

このウサギ耳の人物二人が大きな玉のようなものを持ち上げて(?)いる絵も面白い。おとぎ話の挿し絵のようだ。

Jabbaren

 そして、ついに「火星人」と対面することに。かなり薄く、肩から下ははっきりしないのだが。大きい。ちょうどオーバーハングしているシェルターの壁面に描かれているので、覆いかぶさってくるような迫力がある。それにしても、「白い巨人」などの神像は大きなものがあるが、この丸い頭に模様の付いた人物像は人間ではないんだろうか。こういう形のひとたちが巨人像の足下で拝むようなポーズをとっていることが多いので、てっきり人間なのかと思ったが、こんなに大きく描くとなるとやっぱり普通の人間の姿ではないのだろう。また、このタイプの人物像には乳房がついていることが多いが、「火星人」は正面なので、いまひとつわからない。下の写真は嬉々として撮影する同い年のミシェル。70年代初頭に10才くらいだった者にしかわからない(?)興奮がある。

Jabbaren

Jabbaren

 この頭と模様の人物が連なる絵があり、これも面白かった。この行列はなんだろう。踊ってるんだろうか。頭の上に乗っている(?)ものも何なのか気になる。

 長い髪とヒゲの人物画も面白かった。

Jabbaren

Jabbaren

 

Jabbaren

Jabbaren

 夜は冷えて、いつもは夕食後に少しみんなで話をするのだが、長くじっとしているのも辛く、早々に解散。気温が低いこともあり、ここ二日ほどは昼間の水の消費量が少なく、ゲルタの水を飲まずにすみそうだ。

 この日は18キロ歩いた。

 

Jabbaren