コロンビア・アマゾン壁画紀行 その4

 朝はまた夜明け前に目が醒め、明るくなってからは鳥を見に散歩する。声はするのだが、この日はコンゴウインコは遠くにいてよく見えず。隣の牧場の木によく来ているのだが、フェンスがあって入れない。

 

 

 Casa Piedraは女主人、若い男性(息子?)ともに温厚な感じのいい人たちだ。「うちのコーヒーはコカの葉とシナモンを粉にしたものが入っているから、特別なのよ」と。コカの葉はコカインが出来るずっと前から南米の広い地域で嗜好されてきたものなので何ら問題ない。ペルーやボリビアのようにコカのお茶を飲んだりはしないようだが。

 

 

 この日はRaudal del Guayaberoという名の壁画サイトに行く。昨日訪れたCerro Azulの西北約2キロほどと近い場所なのだが、道が無いので、一度Guaviare川の支流Guayabero川の町Raudalに出て、そこからボートで移動して川から入る。この村は水上交通のターミナルのひとつであり、かつてゲリラの要衝地で、コカインの取引で賑わい、遊興施設などもあったようだ。村人にとってはゲリラが若い男性を強制的に連れ出したりした時期でもあり、未だに行方のしれない家族がいる人も少なくないという。コカ畑は政府軍に爆撃され、かつての遊興施設跡なども全て廃墟となり、現在は観光に活路を見いだそうとしている。

 船着き場には壁画には絶滅した巨大哺乳類が描かれているという解説パネルが設置されていた。巨大ナマケモノだけでなく、他にもマストドンやマクラウケニアというバクのような顔をしたそれらしく見えるものがあるのだと。

 

 ボートで20-30分ほど移動して山に登る。この山の壁画サイトは一ヶ所だ。凹凸の多い壁面に描かれていて、様式は前日のCerro Azulとあまり大きな違いはない。ただしCerro Azulのメインのパネルのような、四角い形の中にドットが入ったものはほとんど見当たらない。やはりあのパネルは少し特殊な印象がある。それにこちらの方が壁画としては自然なのだが、全体にランダムに絵が描かれていて、統一感はない。

 

 

 一番大きく描かれている四つ足の動物はペッカリーというイノシシに似た動物の絵とされているが、どうも写真を見るかぎり頭の形などあまり似ていない。どこを判断してそういうことになったのか知りたいところだ。

 高い所にRaudalの船着き場にマクラウケニアではないかと紹介されていた絵があった。たしかに頭が独特な細長い形に描かれているようにも見えるが、やはりこうしたものは南のチリビケテも含めて、同じモチーフが何度も出てくるようなことにならないとなんとも言えないだろう。足先が三つに分かれているので鹿でないことは確かだが。

 

 

 蝶のような形の中に小さな動物の姿が入っている絵がある。これはこの地域に伝わる蝶の姿をした邪神で、猿が食べられているところだという解釈があるようだ。こうした、怪物の腹の中に食べられた人間がたくさん入っている絵はオーストラリアではおなじみだ。

 

 Raudal del Guayaberoの壁面は右端に一段高いスペースがあり、そこにもかなり細かく絵が描かれている。下からでは見えないので、岩をよじ登っていくことに。サンチアゴは「上に上がったら俺はクビになるよ」と言っていたのだが、同行の現地ガイドが「上がっても問題無い」と言ったようで、スベスベの岩肌を率先して登り始めた。かなり大変で落ちたら今度は膝の骨折じゃすまなかったかもしれないが、なんとか上がる。

 

 

 Scaniverseを使って壁面の主な部分をスキャンしてみた。このアプリは安定して順番に面をスキャンできないとおかしなところが出来てしまうので、壁面の前が岩がごろごろしているような不安定な場所には不向きなのだが、後からサイズを知ることができるのが便利だ。今回壁面に貼るメジャーも作ってきたが、これは使えなかった。

 

 

 この日はCasa Piedraに宿泊しているドイツ人男性とコロンビア女性の夫婦もRaudalに行った。私がプライベートツアーで頼んでいたので時間が重ならないようにずらしてもらったのだが、彼らは水着を持ってきて川で泳いだらしい。私も水着をもってはきたが、泳げる場所だとは聞いてなかったので持参せず。残念。

 このドイツ人男性はおそらく60代後半から70歳過ぎだと思うが、幼少時から世界のいろんな場所に住んできた人で、その体験を聞くだけでも面白かった。仕事も農薬の開発などで、コロンビアで身の代金目的の誘拐などが行われていた時期にも住んでいたというし、フィリピンではマルコス政権の終焉、南アではアパルトヘイトの撤廃前の動乱を目の当たりにしていると。前妻との間の息子さんが日本でカメラマンをしているとのこと。

 

 Raudal村の食堂の壁面には「グアビアレは世界的な観光地になる可能性がある」という言葉とともに大統領グスタボ・ペトロの絵が。壁画だけでなく、雨期には藻が七色に輝く川もあるので、間違いなく、もっと多くの観光客が訪れる場所になるだろう。雨期には川の水位が2メートルも上がって、あちこちが水没して道が遮断されるようだが、そういう場所も少しずつ舗装されて、一年を通して道が使えるように整備されていた。

 

 宿に戻って近くの店でビールを飲み、サンチアゴとダルウィンよりも先に宿に戻ろうとしたが、どういうわけか間違った道に入ってしまい、他の牧場に迷いこんでしまった。ほぼ真っ暗なのでよくわからないのだ。番犬に思い切り吠えられて再び店に戻り、Cerro Azulの宿の息子と一緒に帰る。道に迷うのも困るが、牛の糞があちこちに落ちているので、スマホの明かりがないと地雷を踏むことになる。こちらでも「地雷」と呼ぶそうだ。