タッシリ・ナジェール壁画紀行 その8

Tissoukaï の壁画探索の最終日。この日から、飲み水はタッシリのゲルタ(水たまり)ですくった水に消毒薬を入れたものになる。ボトル入りの水、ジャーネットのオアシスの水がほぼ尽きたからだ。昨年も最後はゲルタの水を飲む可能性があったが、ぎりぎり飲まずにすんだ。結構濃い砂の色がついている。これでお腹をこわした者は、確保してあるボトルの水か、コカコーラを飲むことになっている。コーラは下痢にきくのだ。

私はどちらかというと便秘気味で、お腹がはげしくくだることはなかった。

ベルギーの動物学者クーンが「ゲルタで泳いで気持ちよかった〜。ついでに洗濯もしたよ」と言っていたので、ちょっとこれ、クーンが泳いだ水なんじゃないの!? とざわついたが、別のゲルタの水ということだった。

 

 

アンリ・ロート隊がのこした複写画のなかで、どうしても該当の場所やその近くで見つからないものがいくつかある。壁面に強い陽があたっていると見えないこともあるので、時間を変えて確認に行ったりしても、なぜか全てを特定することができない。おそらく、昨日見た壁画のように、番号が違っていたり、いろんな理由があるのだろうが。

 

 

Tissoukaï から、枯れ川を越えて北東のエリアへ進む。ここはRhardès, Ouan Djeriouenと呼ばれるようだ。 

大きな半人半獣像があった。これもロート隊の模写の中に入っている。(下の写真は補正している)。絵に細い輪郭線のようなものが見えるが、これはロート隊がトレースするために木炭か鉛筆でなぞったものだ。絵を濡らして鮮明になったところで、輪郭をなぞり、トレペに転写するという手順だったようだ。こういう線がとても多く残っているが、水で濡らしたこと以上に、これは絵に大きなダメージを与えるものになってしまっている。アンリ・ロート隊が行ったことは毀誉褒貶が激しいようだが、これは一種の改変であって、影響がとても大きい。

 

 

肉眼ではほとんど見えなくなっていたが、下のものもDStretchにかけるととても面白い壁画だ。中央の大きな人物はロート隊の模写を見ると鳥のような顔をしている。右側の二人も獣人のように見える。ロート隊の説明には「一人の仮面をつけた人」とあるので、中央の人物は仮面をつけていると解釈している。仮面であれば、アンテロープなどの動物の頭蓋骨をつけているのかもしれない。動物の頭蓋骨をかぶったシャーマンというと、映画などではよく見るのだが。ブリテン島の狩猟採集民の遺跡からも似たような遺物が出ている。

 

 

狩猟採集民時代のサイの絵もゆるくてかわいい。(以下二点画像補正)

 

 

大きな猫の額のような絵があった。ちょっと他では見ないタイプのものだ。DStretchにかけると、どうも猫のような頭の獣人か「白い巨人」のような神像のようだ。顔が描かれていたかどうかは定かでない。これも狩猟採集民時代の絵だろう。

 

 

この日は夕方まで北東のRhardès, Ouan Djeriouenエリアを探索する。どの部分がRhardèsでOuan Djeriouenなのかがよくわからなかったが。

 

 

ひとつのシェルターに敷き物などのキャンプ道具が吊るされていた。よく訪れるキャンプ地には運ぶ荷物を減らすためにこうして道具を残しておくようだ。最後に使われたのはいつだろうか。

中国からのお茶の箱が置いてある。アルジェリア育ちのクーンが、若い頃、みんな港からこの空き箱を持ち帰って、積み上げて棚にしたんだよ、と。彼が若い頃というと、60-70年代だろうか。

キャンプに使われた場所は五千年前も現在も、あまり変わっていないに違いない。雨風がしのげる場所、日陰のある場所となるとシェルターの多いエリアになる。こうした場所には古い土器片もあれば、真っ黒くなった空缶などもたくさん落ちている。缶詰の缶はヨーロッパ人が持ち込んだものだろう。ロート隊が残したものもあるかもしれない。みな、ゆっくりと朽ちていき、やがて砂に混じって消えていくのだ。

これがここ二、三〇年はペットボトルなどのプラスチックのゴミが増えていくわけだが、人目につかない場所にまとめられていたりする。タッシリはゴミを残さないように配慮されている印象があるが、訪れる人が増えていけば当然ゴミもまた増えていかざるをえないだろう。

 

 

我々の撮影隊は缶詰めなどは食べない。アンドラスのツアーは、朝はバゲットにジャムやハチミツ、ピーナツバターなどを塗り、昼はバゲットにチーズやサラミ、生ハム、パプリカやキュウリなどを挟んで食べる。バゲットもだんだんと乾いてきて、後半は完全にカラカラで噛むとボロボロと砕け落ちる。バゲットが無くなるとフスマのようなクラッカーになり、これはもう色といい食感といい、砂を固めたものを食べているような感覚。夜はというと、ウォッカをジュースで割ったものを飲んだ後は(これは嬉しいのだが)、定番のお湯をそそぐだけのイギリス製のレトルト食品だ。マカロニ・チーズ、スパゲッティ・ボロネーゼ、ビーフ・シチュー、チキン・ティッカなど、何種類かある。味は少しずつ違うが全てドロドロなので、だんだんと飽きてきて、どれも食べたくないな〜という感じになる。参加するたび、アルファ米など、日本のインスタント食品の優秀さを実感する。

 

 

夜はせっかく三脚を持ってきたので、星空を撮る。夕方から雲が出てくることが多いが、だいたい深夜にはすっきり晴れる。さそり座のアンタレスも赤く輝いている。