タッシリ・ナジェール壁画紀行 その7

この日もTissoukaï エリアで壁画の探査を続ける。西側のエリアに向かった。昨日からアンリ・ロート隊の複写60-71番の絵を探してきたが、地図にロートが記した場所では見つからなかった。これが記録と全く異なる西側のエリアで見つかる。その場所は地図には60-17と記されていたので、絵の番号の方が書き間違えかなにかだったのだろう。

大きな遊牧民のキャラバンを描いたもので、絵も見事だが、保存状態もとても良い。かなり深いシェルターの開口部近くの日のあたらない壁面に描かれている。

牛をつなぐ細いロープまでしっかり見える。

 

                                                                

 

人間は黒いシルエットで描かれている人がほとんどだが、頭に細長い帽子のようなものがついている人物が二人いる。これは「ポンパドゥール」とか「エルビス」とか言われるタイプのもので、あちこちに登場する。この壁画ではこの二人だけが肌が黒く塗られておらず、大きさも一回り大きく描かれているように見える。他の人たちと出身民族が違うのだろうか。どういうポジションなのか。わからないが、このタイプの姿の人が大勢描かれることはないので、やはり特別な地位か役割をもった人なのだろう。

 

 

向かい合って作業する人たち。話をする人たち。おそらくどの人も実在のモデルがいるのだろう。仕上がった絵を前に、キャラバンの皆は絵の上手さに感心したり、どれが誰なんだ、これは何の話してるんだと、笑ったり、大いに盛り上がったに違いない。

当時の暮らしぶりがわかるこうした絵も見ていて飽きないのだが、私はやはり狩猟採集民時代の不可解な絵が好きだ。これは何の絵だろうか。猿のようにも見えるが、壁画によく登場するヒヒともちょっと違う。右上など、パンツをはいているようにも見えるではないか。アンテロープと人間の合体したものがあるくらいだから、ヒヒと人間の半人半獣のキャラクターというのもあるかもしれない。

 

 

私がキース・ヘリング・タイプと呼んでいる人の絵も楽しい。

 

この時代定番のウサギ耳の人、両手を前に出して歩くお腹の大きな人などあるが、一番下の絵の左上のものは何なのか。

この牧畜時代の絵と狩猟採集民時代の絵は同じシェルターの中にある。ここだけでもとても見ごたえのある場所だった。

他にも牧畜民のキャラバンの絵が。こちらも状態が良く、会話する人の姿もリアルで面白い。例のポンパドゥールタイプの人の姿もある。

女の手をとって何か熱心に語りかけるような男の姿も。この二人はこの後どうなったんだろうか。5000年くらい前の絵だけれど、人の声が聞こえてくるようだ。

 

 

笑っちゃうような形の奇岩もあり、とても盛りだくさんの午後だった。
しかも、夕方キャンプに戻る途中で軽く雨が降ってきた。午後に雲が出て上空で雨が降っているような感じはこの日の前もあったのだが、これまでは地上まで届かなかった。

「ここで雨なんて!」と皆が驚いていると、なんと虹が。タッシリで虹なんて聞いたことないよ、と喜んでいたが、後にそんなことでは済まなくなった。

 

 

充実した日ではあったのだが、どうもこの日くらいから体調が悪くなってきた。二日前くらいからノドが痛かったのだが、咳が出るようになってきた。咳が出る風邪なんて最近ほぼひくことがない。もしかして砂を吸って気管支が炎症でもしてるのか?と思い、タオルでマスクしていると、マグディが笑って「それって、もしかしてヤクザのファッションかなにか?」と。砂アレルギー対策だよ、と言うと、そんな話聞いたことないと。風邪をひいて初日から咳をして調子を崩していた人がいたので、もしかしたらもらったかもしれない。

なんにしても、足の裏は痛いし、体調は悪いしで、なかなかしんどい状況になってきた。